2:抱き寄せろ!妹の森!!

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2:抱き寄せろ!妹の森!!

「いくら雪ちゃんがそこら辺の美少女よりもかわいいからって、いくらなんでも無理があるよ冬史朗!!」 藤美花は冬史朗の幼馴染である。物心ついた時から冬史朗と過ごしてきた美花は、誰よりも雪の可愛さを知っており、そして誰よりも雪が男であることを知っていた。 「そうだよおにいちゃん! せめて、弟グランプリにしてよ!!」 美花と同じく、雪も冬史朗に詰め寄った。昔から3人で遊んできた丘野下家の居間は、今や世界の中心だ。気が抜けた両親はそれぞれ普段の生活に戻り、母は夕飯の支度、父は風呂掃除をしている。 冬史朗は呆れ顔でため息をついた。 「ばかだな美花も、雪も。雪より可愛い妹がこの世にいるわけなかろーが。たとえそれが異世界だろうと宇宙のどっかだろうと。そして俺は可愛い可愛い妹への愛で、文字通り世界の誰にも負ける気がせん」 「だーかーら! ぼくは男の子でしょーが!!」 雪は涙目で訴えた。 丘野下家には娘がいない。男2人兄弟だ。幼いころから美少女(仮)だった雪に女装をさせ続け、仕込み続け、雪はどんな美少女よりも美少女に育っていた。 冬史朗はどこからともなく、なにかを取り出す。 「さーて明日は雪の世界デビューだ。いつものセーラー服で行こうかスクール水着で行こうか・・・、はたまたワンピースか」 取り出したのは雪の女装グッズであるかわいらしい服たちだった。 雪は諦めた顔でがっくりとうなだれた。 美花は冬史朗の襟首を掴むと、前後に振り回した。 「そういうこと言ってんじゃないの!! そもそも雪ちゃんは男の子なのに、どうやって妹グランプリ?だかやらせるのよ!!」 「ばーか美花、お前もよーく知ってるだろ雪の可愛さを」 諦めたようにジト目で冬史朗を見る雪の肩を後ろから掴み、美花の顔の前に突き出した。 「雪が男かどうかは関係ない。雪は世界一の弟で、そして世界一の妹だ。どんな難題が来ようが、俺たち兄妹に勝てる兄妹はいない!!」 「ぼくたち、兄弟、ね」 「はいはい御飯よ。みーちゃんも食べてくでしょ?」 大皿に山盛りに積まれたから揚げを机の上に置きながら、母親が会話に割って入った。 「わーから揚げ! 私おばさんのから揚げ大好き! ありがとうございます!!」 「なんだかんだお前も緊張感のねーやつだな」 それぞれ所定の位置に座りなおしながら、目を輝かせて皿を運ぶ手伝いをする美花に冬史朗は突っ込んだ。 「さて雪よ、練習がてらこれ着て夕飯でも食べなさい」 そういって、女性ものの下着上下セットと、冬史朗自らのTシャツを差し出した。小柄な雪には少し大きく、ちょうど下着が隠れるサイズだ。 「もー! やめてよ変態おにいちゃん!!」 「そうだぞ冬史朗。そんなもの着せるなら、これも着なさい」 夕飯の香ばしい香りに誘われた風呂担当は、部屋着用のホットパンツを雪に渡した。 「この変態親子供」 お味噌汁を運んだお盆で、美花は変態親子を叩き、冬史朗の隣に座った。 パラパラと、穴の開いた天井からほこりが落ちる。さっとから揚げの場所を変えながら、雪は心配そうに聞いた。 「でもおにいちゃん。仮に変装して妹になりきっても、ばれたらそこでゲームオーバーになっちゃうんじゃないかな? ぼく、その、美花ちゃんみたいに胸もないし・・・」 「そんなこと気にしてんのか雪」 「いや、気にしてるわけじゃないけど。そもそもぼくは男だからね!?」 「だーいじょうぶだ。見ろ、美花も高校2年生にしては対して大きくもないだろう」 「こら! 人の胸を箸で指しながら何言ってんのよ!!」 ぽかり、と美花が頭を叩く鈍い音が天井の穴から抜けていく。 「そうだ美花、ちょっと分けてやれよ」 「あんたのデリカシーの無さは世界一よ!」 平然と続ける冬史朗の頭に、美花はお盆を力いっぱい振り落した。 翌日。 4月2日。地球の運命を決める戦いがはじまった。 目を開けているのもやっとな晴天だ。普段は平穏な町だが、どこからやってきたのか、世界の運命を見に、国籍問わず大勢の人間が押し寄せていた。丘野下家の周りにも人があふれ、噂によると、世界中のモニターで実況中継もされるようだ。 沿道にも人があふれ、異世界人と、地球人が出店を出し合い、小さな戦いが勃発している。 高校の学ランに身を包んだ冬史朗は、頭には地球カラーの青に染まった鉢巻、腕を組み仁王立ち。長袖ジャージに短パン、高校の指定ジャージで同じく青い鉢巻をまいたセコンド担当の美花が、その一方後ろに立った。 ズズン・・・、と地響きがなり、空に紫色の亀裂が入ると、9時ちょうどに光のカーテンとともにデネブが降り立った。セコンドの大男も控えている。 「逃げずに来たことを・・・、まずは誉めてやろう」 「待てこら、それは俺様のセリフだろーが!」 開口一番当たり前のように告げる冬史朗に、思わずデネブは取り乱しながら突っ込んだ。 「お、王子、落ち着いてください。国の者どもも来ておりますゆえ・・・」 「すまないシリウス・・・」 側近の大男はシリウスと言うようだ。 一息つき、デネブが右手を差し出すと、手のひらで紫色の渦が巻き、昨日の水晶玉が現れた。 「さぁて人間、心の準備はいいか? 勝負は3つのお題三日間をかけて行う。一度でも貴様が負ければその瞬間この星は俺様のものだ・・・」 冬史朗は言葉を遮るように右手を挙げた。 「待てよパツキン坊ちゃん」 「パツっ・・・! ふっ、でかい口を叩けるのも今のうちだ。命乞いをするとき、お前だけは一番時間をかけていたぶってやる」 「そんな有りもしない未来の話はどうでもいい。勝負の内容の前に、まずは妹の紹介といこーぜ」 「ふん。なるほどな。・・・まぁ、いいだろう、うん。妹の紹介だな・・・いいだろう」 「いいだろうリピートしてるぞ王子様」 デネブは少しだけばつの悪そうな表情を浮かべたが、すぐに王子の顔を作り上げた。幼き頃から鍛えられた王子の習慣だ。 「降りて来いベガ!!」 デネブは冬史朗とにらみ合ったまま、空に向かって妹の名前を呼んだ。 ・・・。 ・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・。 空からは、誰も降りてこない。紫色の割れ目もできず、さわやかな小春日和だ。 「あ、あれ。・・・ベ、ベガ! ・・・ベガ?」 「なぁにお兄様?」 「どわあっ!!?」 ひよっこりと背後から顔を出した妹に驚き飛び上がった拍子に、水晶玉が手から滑り落ちた。 「どっ、どあーっ!!!」 王子として鍛え上げられた身のこなしのおかげか、デネブは一瞬のうちに体をひねり、地面すれすれで水晶玉に飛びついた。真っ青な顔でぎりぎり割れなかった水晶玉を見ながら方で息をしていたが、大衆の目線を感じ即座に立ち上がり、王子モードに戻る。 ベガと呼ばれた妹は、デネブに負けずとも劣らずの美形と、人を魅了する怪しげな雰囲気をまとった常軌を逸した美少女だった。兄と同じく光の当たり加減で微妙に色合いを変える髪は、とても薄い灰色だが、きらきらと動くたびに薄く輝いている。狐を思わせる少し釣り目のきれいな目は眠そうにトロンとしており、見つめると吸い込まれるようなシロップ色だ。赤い着物を肩まではだけ、谷間を強調するような着こなしで、少しだけ宙に浮いていた。それも、着物はひざ上のミニときている。 「ベ、ベガ。びっくりするじゃないかいきなり後ろから現れたら・・・。それにこの水晶玉は我が国の家宝だぞ!割れたらどうするんだ・・・!」 「そないなこといいましても、お兄様がしっかり持ってないからですよ」 エセ京都弁のような話し方で、ベガは飄々と返した。赤色の帯にはお馴染み「明日から始める地球侵略」が挟まれている。どうやら中途半端な日本語が載っているようだ。 美花は冬史朗の後ろに隠れ、学ランの袖を掴みながら顔だけ出してつぶやいた。 「うわー、すっごい美人・・・」 「和服ってのもポイント高いな。美花、少しだけ胸を分けてもらったらどうだ?」 美花の拳が、頭に振り落された。 「いてて・・・。おいバカ王子! めちゃくちゃ最高な妹じゃねーか!」 「バッ、てめーこら、俺様に向かってなんだって!?」 「うふふ、バカ王子、バカ王子ですってお兄様」 ベガは嬉しそうに笑った、袖を口元にあてる仕草は、とても艶やかだ。 「だがな、悪いが俺の妹には勝てん! 雪!」 「は、はぁい・・・」 きぃー、という開閉音とともに。申し訳なさそうに丘野下家の玄関が開いた。 沿道のギャラリーから、ベガ登場に負けるとも劣らない歓声を上がった。 王道のセーラー服は丈が短く、へそがちらちらと見えている。また、ひざ上、下着ギリギリの長さに採寸されたミニスカートを必死で抑える仕草は、性別問わず人間の何かを守りたい願望を駆り立てた。髪は元のまま前髪を少しピンで抑え、顔も、多少化粧をしている程度で、圧倒的な透明感を放っている。 「私、年々雪ちゃんの女装見るたびに自信を無くしていく・・・」 美花がつぶやく。 「おにいちゃん、恥ずかしいよう・・・」 美花のさらに後ろに隠れようとする雪の肩を抱き寄せ、冬史朗は隣に引っ張った。 「わかるかバカ王子」 冬史朗は雪の透き通るような生足を指さす。 「ニーハイと悩んだが、素材の良さで勝負するため、あえてのスニソ・ローファーだ!」 うおー!! と野太い歓声が路上より上がり、完成は地響きとなり、世界を超えたアンサンブルとなった。 スニソとは、スニーカーソックス、つまりくるぶしが露出するほど短い靴下の事だ。つまり、生足ミニスカートからの、裸足でローファーを履いているような見た目である。 王子は、感じたことの無いむずがゆさを感じた。異世界の王子として、幼き頃から鍛錬を積み、無論世界中のいい女を目にしてきたが、それでも感じたことの無いむずがゆさだった。今すぐ家に帰り、自らの布団に潜りこみ、枕を抱いて気が済むまで転がり続けたかった。枕に向かって 「うわー!! うわー!! 好きだー!!」 と叫びだしたい気分だった。 「・・・王子、声に出ております・・・」 シリウスの言葉で我に返ったデネブは、宙に魔法で備え付けられたモニターに映る自分のマヌケ面を見て瞬時に王子モードに戻る。 「ふん、ゴミクズの妹は所詮ゴミクズってとこか・・・」 「おそいですよーお兄様」 にやにやとベガが突っ込むが、デネブは数秒前が無かったかのように、再度水晶玉を乗せた右手を差し出した。 水晶玉は怪しく光、中では紫色の霧のようなものが渦を巻いている。紫色の電気のようなナニか、が水晶玉の周りでバチバチとはじけると、しゃがれた老婆の声で第一のお題が告げられた。それは、スピーカーのような形ではなく、直接それぞれの脳に語りかけてくるようだ。 『第一のお題は・・・、信頼関係を砕く、裏切りの森じゃ・・・』 「裏切りの、森・・・」 『異世界空間にそなたらを飛ばす・・・。そこにはそなたらの妹と、そしてまったく同じ見た目・行動・話し方の悪魔が99人いる・・・。先に本物を探し当てたほうが勝ちじゃ・・・』 「ほう?」 「ふむ・・・」 冬史朗、デネブはそれぞれ顎に手をあて、内容を聞いた。 『ただし、外れを引くたびにそなたらの妹の寿命を1年ずつ引いていく・・・。くくく・・・、買ったものにはなにか兄妹にまつわる商品を授けよう・・・』 ひとつめからヘビーな内容に、会場もざわついた。先に口を開いたのは冬史朗だ。特段、焦る様子もない。 「なるほどな、つまり、妹の森、ってことか・・・最高のビジュアルだ」 『おいこら・・・、勝手な名前をつけるな』 「第一の課題、妹の森、か・・・。ふん、残念だが俺たちは貴様らの3倍生きる。俺たちのほうが有利そうだな。どちみち、俺様が勝てば貴様らの命はないが」 『こらバカ王子。裏切りの森じゃ』 「おにいさま~私の寿命で遊ばないでもらえますか?」 ベガは口元に袖をあて、笑いながらデネブの後ろに隠れた。 「いでででででででででででっ!」 どうやら腰をつまんでいるようだ。 「ちょっと冬史朗。大丈夫なの? 妹の森、雪ちゃんの寿命をかけるなんて・・・」 「お、おにいちゃん・・・」 『おい地球人女A、B。タイトル違うって言ってんだろ』 「大丈夫だ雪、俺がお前を一発で当てられないはずないだろ?」 自信満々の顔に、雪は安心感を覚えた。 「うん。おにいちゃんならきっと・・・」 お兄ちゃんなら本当に一発で当てそうで気持ち悪い。その言葉を、雪は優しく心に閉まった。 その異世界は、恐ろしくシンプルな閉鎖空間だった。 不安そうにうろつく雪たち100人が所狭しと入れられた空間で、宙には見下ろすように水晶玉が浮かんでいる。 大衆からは空に浮かんだ二つの水晶玉からそれぞれの様子が見え、それぞれの行動を見ることができた。 セコンドとして現実世界に残された美花は、恐る恐るシリウスへ質問した。 「不正とか無しですよね?」 「貴様らの星で、正式な戦いで不正があるのかは知らんが、我らの世界では約束は命よりも尊い制約だ。一切の不正なし。我らの王子も真っ向勝負だ」 「・・・」 (頑張って、冬史朗、雪!) 美花は両手を合わせ、空に浮かぶ水晶玉を見上げ祈った。 異空間内ではお互いの様子を見ることはできない。だが、幼少期より培われた空よりも高く、海よりも深い自信は、デネブに余裕をもたらしていた。 「妹の森・・・ごとき、この俺様にかかれば造作もない。我がスター家の血の絆はは絶対なのだ」 100人のベガは、いつの間にか昔なじみのようにこそこそ話を始めている。 「血の絆ってなんでしょうかねー」「ほんまいやですわーお兄様のナルシストぶりには」「バカ王子とは言いえて妙どすなー」「バカ王子」「バカ王子」「バカ」 皆一様に袖で口を覆いながら眠そうな目で笑っている。 「バカ王子ならまだしも!バカとはなんだバカとはー!!!」 バカ王子は涙目だ。 「ええい! 勝負は一瞬だ!!」 どこからどうみても全員毛の一本一本まで同じだ。 兄をどこかいやらしく、小ばかにした動きまでシンクロしている。 幼少期より将来の国を背負う兄妹として育ち、国民の誰もが羨む美男美女。将来の王として英才教育を受け、日々勉学から鍛錬まで忙しくしていたデネブと違い、ベガは結構、暇、だった。 暇つぶしと言えば兄をからかい、いたずらをすること。そのため、デネブはどうにもベガに強気になれないでいるのだ。 「お兄様私ですー」「お兄様ならわかりますよねー」「私がベガですお兄様ー」 「スピードが命っ・・・! 俺の王の資質が言っている・・・、本物はこの3人の中にいる!!」 選ばれた3人のベガを兄に詰め寄り、三者三様の迫り方でアピールした。 「私が本物ですお兄様ー」「私ですお兄様ー」「お兄様、ベガは信じております」 圧迫面接に耐えられなくなり一歩下がると、選ばれなかった97人が後ろで嘘泣きをしている。 「くっ、これはこの俺様でも耐えられる空間ではない・・・。えーいままよ!」 デネブは3人並んだベガのセンターに指をさした。 「我が妹はお前だー!!」 静寂。 すると、選ばれたベガはにこり、とほほ笑んだ。 デネブは思わず自分の才能に涙し、天高く拳を突き上げようとしたが、どこからともなく木槌を取り出した99人のベガにリンチにあい、拳を上げたままベガの森に埋もれていった。 「ざんねん外れですお兄様ー!!」「最低お兄様ー」「最低ー」「バカ王子最低ー」「最低バカ王子ー!!」「バカー」 一方の冬史朗。 開始のゴングが鳴った後も動かず、ただ顎に手をあて唸っていた。 「うーん・・・」 沿道にて、水晶玉を見つめるギャラリーの中で、悩む冬史朗を見て美花は気が気ではない。 「どうしちゃったの冬史朗・・・!」 「みーちゃん、おいなりさん作ってきたの、食べる?」 「おばさん・・・」 呑気な丘野下家の両親の雰囲気に、美花は思わずため息をついた。 「おにいちゃんこれスカート短すぎ・・・」「おにーちゃん!」「おにいちゃん恥ずかしよう!」「おにーちゃん」 「これはどうしたものか・・・」 皆一応にスカートの端、丈の短いセーラー服を抑える雪たち100人に、冬史朗の頬を涙が伝った。 「なんて・・・、なんて最高な空間なんだっ・・・!!」 本物を当てる当てないの前に、冬史朗はこの夢にまで見た妹の大群の世界に感動し、恍惚の表情を浮かべたまま動く気を失っていたのだ。 「眼福眼福・・・」 こんな幸せな状況を自ら壊せというのか!?丘野下家の女装は完璧、 「上下きちんと女性ものの下着も着ている・・・。100人の雪に埋もれたい!」 「こらー!!声に出てるぞ変態ロリコンあにきー!!!」 水晶玉の向こうから美花が叫ぶが、もちろん届くことはない。 「こいつも雪! こいつも雪! こいつも!こいつも!」 とっかえひっかえ、次々と雪を抱いては寄せ、抱いては無き、冬史朗は異空間を縦横無尽に走り回る。時には生足に抱きつき頬ずりをした。 ギャラリーでは絶世の美少女の雪に見とれながら、その異常なまでの兄妹愛にところどころで声が上がった。 「あんだけ可愛い妹ならああなるのしかたないよなー」「うちにも妹がいるが、絶対にあんなことできないぜ? 興味もわかん」「いやーベガちゃんもいいけど俺は雪ちゃんだなー」 盛り上がるギャラリーの声に冷や汗を流しながら、美花は呟いた。 「お、弟なんですけど・・・」 何人もの雪を抱き寄せ、埋もれながら雪の匂いを嗅いでいた変態は、宙に浮かぶ水晶玉を見てようやく我に返った。 「どわわわっ! 危ない危ないなんて凶悪なお題なんだ妹の森・・・。危なく妹欲に負け、世界の命運を忘れるところだった・・・」 「おにいちゃんスカート!スカート!」 下着をはぎ取ろうとスカートを引っ張る冬史朗。口と行動がまるで合っていない。 とはいえ、この世界がいくら幸せでも、こと戦いに負ければ二度と雪に会うことはできない。冬史朗は天に向かって答え合わせを行った。 「名残惜しいが仕方ない・・・、本物の雪、見破ったり!」 沿道が今日一番の盛り上がりを見せる。もう一つの水晶玉では、6回目の答え合わせも間違い、ベガの群れに雨のようにビンタを食らうデネブが映っている。 『ほう・・・、この裏切りの森、そう、裏切りの森を見破ったと申すか・・・。言ってみろ』 老婆の声は、どうやらお題のタイトルにこだわりが強いようだ。 「ああ、この妹の森、本当の雪は・・・」 『裏切りの森だっつってんだろクソガキ!!』 「この中にはいない!!!」 『・・・ほう?』 老婆は声だけもわかる、卑しくにやついた声を出した。 『それでよいのか? 言ったはずだ・・・、貴様らの妹はこの異空間の中にいるとな・・・?』 「まぁまてよ」 『!?』 冬史朗は無駄に整った顔つきを十二分に生かした笑みを浮かべ、無論、両手には数人の雪を抱きしめたまま言い放つ。 「宙に浮かぶ水晶玉・・・、あれが本物の雪だ!!」 言い終わると同時に、宙に浮く水晶玉が光り輝き、姿かたちを人間の、雪の姿に変えた。ゆっくりと、眠らされた本物の雪が宙から舞い降り、それを腕にしっかりと受け止めると、100人の雪が消え、同時に現実世界へそれぞれ戻された。 「あ、ありゃ?」 次はなにで殴られていたのか、両手で頭を押さえたデネブと、それを見て笑うベガも同じく現実世界に戻ってきた。 「あら、負けたみたいどすえお兄様ー」 「なんだと!?」 『なぜわかった・・・!』 「お・・・、おにいちゃん?」 目を覚ました雪に軽く微笑みかけると、泣きながら駆け寄ってきた美花のタオルを受け取り、冬史朗は異世界の面々に言いはなった。 「バカめ!! 宙に浮く水晶玉と目が合ったときに直感したのさ! ・・・なんでかって? それは俺が兄だからだ!雪が生まれたその日から、俺はこいつの兄で、24時間36日愛があふれているからだ!!!!!」 意味は、まったくわからないが、ともかく地球の命運をかけた3番勝負初日は、こうしてあっけなく地球人の勝利で 幕を閉じた。
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