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3:NEW WORLD
「くそっ! なんだんだこの世界の人間たちは!! この俺様をここまで追い詰めるなんて・・・!」
「申し訳ございませんデネブ様!! カリキュラムに妹学を入れていない、私シリウスの失態でございます・・・!」
「いや、シリウス、お前は悪くない・・・。これはこの俺様に王の器があるかどうか、人生で初めての試練なのだっ・・・!!」
「頭の悪い会話どすなー」
「おい何か言ったか、ベガ!」
「あら?お兄様も地球の訛り中途半端に覚えたんどすかー」
「・・・? いや、何か言ったべか?じゃなくてっ! なにか言ったべカ? じゃなくて、言ったベ、あれ?」
「うふふ、お兄様面白い」
袖を口元にあて、ベガは満足そうに笑った。
デネブたちの住む世界では、所謂魔法が一般的だ。地球との狭間に魔法のような力で作られた空間に、簡易的に作られたお城は、まるでこの場限りとは思えない豪華で、堅牢な見た目をしている。ちなみに、普通に丘野下家の上に浮いている。
「ふざけている場合ではないぞ、ベガ! 明日負けたら我々はこの星を諦めてみじめったらしく撤退せねばならん!! ・・・くそなんなんだあの男は!思い出すだけでも我が人生一番の屈辱・・・!」
初日に続き、2日目もあっさりと、デネブは冬史朗に敗北している。
水晶玉がランダムに出題するそれぞれの妹に関する100の問題への正答率で競う内容だ。血液型などのメジャーなものから、秘密、初めて腋毛が生えた日などのニッチなものまで出題された。いつの間にか仲良くなった両世界のギャラリーたちが飲めや唄えのバカ騒ぎをしながら見守る中、王家の維持を見せたデネブは正答率「57%」という高得点を叩きだした。兄妹のいる者ならわかるはずだが、これはオーディエンスも驚きで大歓声を上げる健闘ぶりだ。まして、幼少期からのベガへの苦手意識を持つデネブにとっては、我ながら土壇場の力と、もって生まれた運も再確認できる内容だった。もちろん、半分以上妹の詳細について答えられたデネブへ、ベガはゴミでも見るかのような目つきで讃えた。
そして、制限時間ぎりぎりでようやく終わらせた冬史朗は、「99%」でまたしても世界を守った。「初恋の相手」に対し、違うとわかっていながらもどうしても自分の名前を書いてしまい惜しくも100%を逃した。逃した上に、この問いだけは昔から考えるのを避け続けていたため思考が停止し、危うくタイムオーバーになるとこであった。
「本当に、面白い方どすなーあちらのお兄様」
ベガは嬉しそうにケラケラと笑う。
「しかしデネブ様・・・、明日奴めに勝つことができますでしょうか?」
「・・・勝つしかあるまい。なんとしても・・・」
『お困りかい王子様・・・?』
祭壇に祭られた水晶玉が、怪しく揺らめいた。
「なっ!?」
水晶玉はひとりでに浮くと、ゆっくりとデネブらの前へ移動してきた。
『珍しく苦戦しているじゃないか王子様』
「なんだ? まだ流されて妹の森と呼んだことを怒っているのか?」
『ちがうわいっ!! ・・・くそ、あの人間が絡み始めてから私のキャラまでブレてしまう・・・いけないいけない』
水晶玉は深呼吸をしているようだ。水晶玉の深呼吸というのは、まったく意味は分からないが。
『手を貸してやろうか?王子様よ・・・』
デネブは、ムッと片眉を曇らせる。
「このデネブ・スターをなんと心得るか! 俺様は約束は破らない! 戦いは、正々堂々行い、やつをこの手でひねりつぶす!!」
「さすが王子!」
感涙に咽びながらシリウスは立ち上がった。
「本題はこの世界を奪い取ることだった気がしますが、お兄様すっかりケンカに夢中どすなー」
『・・・そうかい、父親に似ず、まっとうな心を持っているねぇ。それではせいぜい頑張りな・・・』
「まぁまて」
グワシッ、と水晶玉はデネブの大きな手で押さえつかられた。
『この二日でこの私に対する態度が大分雑になっていないかいこのバカ王子!!』
「誰がバカ王子だ!! ・・・とはいえ、このまま大衆の面前で妹グランプリにあっさりと敗北するわけにもいかない」
「勝ち目が無いことは認めとるんどすなー」
「教えてくれ。なんだ策というのは」
『明日の内容に必ずこれを追加してやろう・・・』
ゆっくりと、水晶玉は宙に円を描き始めると、次第に速度を上げその軌跡は紫色のラインを作り出した。すると、ゆっくりと、その円の中から銀色の、先端から柄まで全て銀でできた剣が現れた。刀身は、ところどころ錆びついており、年季が入っている。
デネブは、剣を手に取った。持つ分には、普段手にしている剣と特段変わりはない。
一振り。
「おい、これはなんだ?」
『そもそもいつからため口になったんだい』
動きを止めた水晶玉は、またいつも通りの形で宙に浮いている。
『くくく・・・、これは、真実の剣、だ・・・』
「水晶のおば様、裏切りだの真実だの抽象的な言葉が好きどすなー」
『こいつはね、ちょっと変わった力を持った剣なのさ・・・』
「『・・・』が多くて話が進みませんなー」
『うるさいねこのメスガキ!! アバズレ!!』
「メスガキはメスガキやけど、アバズレはちゃいまんなー。まだまだピカピカの一年生やでー」
「おいまてベガ聞き捨てならんぞ!! 入学はしてるじゃないか! どこのどいつに一年生にされた!! 今すぐここに呼べ!!!」
『だーうるさいうるさいうるさーい!! 黙って話も聞けないのかいあんたらはー!!!』
丘野下家では緊急家族が開かれていた。
議題は明日についてだが、明日の最終戦についてではない。
白熱しているのは丘野下家の大黒柱であるところの父親と、そしてある日突然世界の命運を任された変態シスコンバカ兄貴こと長男だ。
「明日の雪の衣装はミニスカポリスだ! これは譲れん!!」
「親父は全然わかっとらーん!! そんな安直なことでどーする!! 雪の良さを最大限引き出せるのはこの俺しかいない!!!」
「やめなよおにいちゃんー!お父さんー!! こんなことで争ってる場合じゃないよー!」
変態の間で慌てる雪。
「雪。いいか? 真面目に聞いてくれ・・・」
「ええっ、なに・・・」
急に真顔で詰め寄る冬史朗に、思わず雪は身構えた。
並び立つふたりは、口さえ開かなければまるでおとぎ話の主役のような出で立ちだ。
世界の中心である居間で、明日までかもしれない地球の寿命を前に頭の悪い討論をするふたりを眺め、丘野下家の母親と熱いお茶を啜っていた美花は思わずうっとりと呟いた。
「画になるねほんと」
「ほーんと。お父さんの息子たちとは思えないわ。私のDNAだけ引き継いでくれたのねー」
美花は、大人の対応でスルーした。
「な、なに? おにいちゃん・・・」
「お前は世界一の妹で、俺は世界一お前を愛している」
「だから、弟だって!」
「そんな俺からお前にこれを託す」
そういって冬史朗が取り出したのは、チャイナ服だった。扇子もある。
「危機感をもてこのド変態ー!!」
美花が放った湯呑が冬史朗の頭に直撃し、お茶が雨のように降り注いだ。
「どわーっ、熱っ!熱っ! こら冬史朗!!お前も安直だろーが!! 熱っ!」
「そそそ、そうだよおにいちゃんー! お父さんと変わらないよー!!」
「いーや、ただのチャイナ服じゃない! ほれ、扇子(センス)もある!!」
その日世界の中心は、熱い雨もものともせず、凍りついたという。
明朝9時。
空が降ってきたと錯覚するほどに、分厚い雲がすぐそこまで押し寄せていた。
どこの世界でもお祭り騒ぎというのは人々を駆り立てるようで、まるで今日地球が誰かのもになる可能性があるとは思えないくらい、国、というか世界の壁を越えて盛り上がっている。
最終戦の内容はこうだ。この町のどこかで眠る自らの妹を見つけ出す、ただそれだけ。先に見つけてタッチするだけだ。
丘野下家の前に引かれたスタートライン。
「今日で最後か・・・。正直、名残惜しいぜバカ王子・・・」
「ようやく怖気づいたか! 名残惜しかろうが、今日で貴様らはこの星とお別れだ。せいぜい最後によーく目に焼き付けておくんだな!! ・・・あとバカ王子ではない今すぐ切り刻むぞゴミクズ」
「いや、こんなに楽しいのは初めてだったって事だよ。負けたら元の世界に帰ってしまうんだろ?」
「楽しいだと?」
「シスコン同士しのぎを削れて、しかも合法的に妹の可愛い姿を見れて、お前のおかげだぜバカ王子」
「・・・能天気なやつだな貴様。状況が分かってないのか? ・・・まぁ貴様の妹くらいは、俺様の奴隷として生かしてやらんこともないが」
「俺が言うのもなんだけど、変態だなお前」
「なぜそうなる!!」
「変態バカ王子」
「殺すぞド変態ゴミクズ!」
『無駄口叩いていないで始めるぞクソガキども!!!』
水晶玉に怒られ、最終日の火ぶたは切って落とされた。
スタートと同時に、デネブは宙に浮くと町を見渡せる高さまで上がっていった。
「くそ! めちゃくちゃだなあいつら」
セコンドの美花がスクーターに乗って現れた。どこに行っていたのかと思えば、異世界人の能力に対抗するべく、家からスクーターを持ってきたのだ。
「お前、免許は!?」
「明日世界が終わるかもしれないって時に道路交通法もなにも関係ないでしょ!」
「確かに。で、これ二人乗り行けるんか!?」
「なんとか乗り込んで! 冬史朗なら雪の匂いとかで終えるでしょ? カーナビだけして!」
「お前俺をなんだと思ってるんだ・・・!? ま、その通りだが。よっしゃ、行くぞ!!」
美花が思い切りアクセルをふかすと、どす黒い煙が仲間を求めて宙に消えていった。
「正直ここまで離れてしまうといくら俺でも雪の匂いを嗅ぎ分けるのは難しい」
「・・・どの距離ならわかるのよ・・・」
冬史朗は風に揺られながら縦横無尽に首を振るが、排気ガスの匂いしかしなかった。それどころか、スニーカーから振り落されそうになる。
「ちょっと、バカ! しっかり掴まって! ・・・きゃっ! バカ!抱きつかないで!!」
「どうしろってんだよ・・・」
これだから本物の女性は、と冬史朗は思った。
「いいか美花!」
「なにー?聞こえない!」
風で声がかき消される。冬史朗は声を張り上げる。
「てかお前! まだどこ行けとも言ってないのにどこ向かって走ってんだよ!!」
「わからないー!とりあえず風になってるだけ!ひゃほーう!!」
「美花ー! お前まで冷静さを失ったら、うおっ、バカっ、スピード出しすぎだろー!!」
幼馴染の新たな一面に驚きつつ、冬史朗は話を続けた。
「俺の直感が言ってる! 妹は、あの一本杉の下だ!!」
一本杉とは、丘野下兄妹、そして美花の母校である小学校のグラウンドに生えた杉の木だ。幼いころ、3人でよく遊んだ思い出の場所でもある。
見た目が女だったため、よく同級生にからかわれた雪は、幼いころ冬史朗、美花と居ることが多かった。顔もよく、運動神経も抜群、地元のヒーローだった冬史朗は、雪の自慢の兄だったのだ。とはいえ、幼少期より女の子の格好をさせられたことが、雪の女らしさに磨きをかけたことは言うまでもない。
母校は、人の気配もなく、恐ろしい静けさだった。町中の人は世界の命運を見にお祭り騒ぎに出ているため、丘野下家の周りに集まっているからだ。
「バカ止まれ止まれ止まれー!!!」
勢いそのままにグラウンドに乗り付けたスクーターは、華麗にドリフトを決めて停止した。飛び降りると、二人は木の下に駆け寄る。
豪華なベッドだ。小学校のグラウンドにはどう足掻いても似合わない、キングサイズお豪華なベッドが置いてある。装飾品が光り、曇り空の下でも直視できないほど輝いている。
薄いカーテンを開けると、そこには健やかに、ベガが寝ていた。
「冬史朗・・・、妹違いじゃない・・・?」
「とはいえ、全世界の兄代表として、このまま放っておくこともできないよな・・・」
「なんでそうなるのよ!」
「頭も悪い人ですなー」
「ほんとに、バカなんだから! そうこうしてる間に雪が弟だってバレたらどうすんのよ!」
「バカ! 雪は弟であり、妹だ!!」
「あらあら、男の子だったんどすかー」
大分序盤から、ベガが起き上がって会話に混ぜっていることに、今更二人は気が付いた。
「きゃー! いつの間に起きてたんですか!!」
「きゃー! 最初から寝たふりどすー」
「・・・バカにしてます?」
「ちょっぴり」
ベガはクスクスと笑った。
「まいった、先にお前のほうを見つけてしまうとは」
「お前じゃありません、ベガといいますー」
「・・・とにかく、お前、雪は妹だからな! 俺たち兄妹は世界の救うのだ!!」
「ベガ」
「いや、だから」
「ベ・ガ」
「・・・ベガ、だから、俺たち」
「わかっとりますー。ウチは勝負に興味もないどすからなー。おたくの妹さんが弟さんなのは黙っておきますー」
「なんか雑なエセ京都弁使うのねこの子・・・」
いつの間にか三人はベッドに座りこみ座談会になっていた。
「それにあなたたち、面白いから、このまま平和に遊び続ければいいなーと思っとりますー」
「えええっ!? 全然おにいさんと意気込みが違うじゃないですか!!」
ベガの発言に、美花は大きく目を見開いた。
「ああみえてバカあ・・・、お兄様も楽しくなってきとるんちゃいますかねー。ただ、立場上後に引けなくなって」
「ほーう、なるほどな。まぁぶっちゃけ俺にはどっちでもいんだけどね」
「よよよ良くないわよ!! 負けたらみんな消されちゃうんだよ!?」
「言い方が悪かった。どうせ俺が勝つからどっちでもいいんだよねってこと! それにこんな大々的に自分の妹を自慢できて、しかも妹への愛で戦えるなんて一生の思い出だぜ」
「冬史朗、あんたほんっとに能天気なんだから・・・」
「おもしろい方ですなほんとに冬史朗さん」
初めて自分の名前を呼んだベガに、流石の冬史朗も驚いた表情を浮かべた。
「でも、うちが黙ってないとあかんちゅーこと忘れないでおいてなー。貸し1、やでー」
「貸、か。ま、りょーかい。とにかく急ごう美花!」
冬史朗は立ち上がり、美花はソレに合わせてバイクを立て直すと、エンジンをかけた。
「冬史朗さん」
「あんだ」
「きーつけてくださいませ。また遊べることを信じてます」
「・・・?」
「いくわよー冬史朗ー!」
美花の呼ぶ声に、冬史朗はベッドを後にするとバイクの後ろへ跨った。校庭の去り際、見送るベガを見ると眠そうな顔で手を振っていた。
分厚い雲はより一層空を覆いつくし、降りそうで降らない雨になにか不穏な空気を感じさせた。
冬史朗、美花は、勘を頼りに雪の姿を探したが、見つけることができないまま2時間ほどが過ぎようとしていた。しかし、今こうして二人が雪を探せている時点で、一方のデネブもまだ校庭にたどり着けていないということだ。
「冬史朗、ほかに心当たりは?」
「うーむ、俺のセンサーに引っかかるところは行きつくしたし・・・、まいったな」
「あんたの妹センサー(仮)も疲れて狂っちゃたんじゃないのー? 本物の妹から先に見つけちゃうなんて。センサーとか頼ってないで、初心に帰って泥臭く探す?」
「そう、だな・・・」
ふと、冬史朗は何かが引っ掛かり、アクセルを回そうとする美花の手を握った。
「!? な、なに!? ちょちょっ、ちょっと! みんなにモニターで見られてるんだから!!」
動揺する美花をよそに、冬史朗は引っかかりの理由を探っていた。
「美花、今、なんて言った?」
「ええっ? だーかーら、みんなに見られてるところではっ」
「いや、それじゃない」
「・・・」
美花は恥ずかしさで顔が熱くなった。
「・・・こほん。どれのことよ。妹センサー?」
「もうちょい後」
「??? 初心に帰って泥臭く?」
「初心に、帰って・・・」
冬史朗の、様々な格好をした雪でいっぱいの頭の中に、初心に帰るという言葉がぐるぐると回った。セーラー服の雪、チャイナ服の雪、スクール水着の雪、ワンピースの雪、ホットパンツの雪、タイトスーツの雪、笑顔の雪、頬を膨らませる雪、あたり一面雪、雪、雪・・・。
「ちょっと? 冬史朗? こら。おーい」
あっという間に元通りの脳内になった冬史朗は、さっきまでのさながら推理する探偵のような顔はどこえやら、ただの変態面になっている。
「こら変態。おーい」
ぺちぺちと頬を叩くが、変態は中々手強く、戻ってこない。
「おい変態ってば!! 時間がないって!! こらー!!!」
バチン!!と力いっぱい頬と叩く気持ちのいい音がモニター越しに地球中に響き渡った。
「おおっ!? 美花、いつの間に!? ここはどこだ?」
「・・・はー。バカいってないで・・・」
冬史朗は半分夢見心地のまま、ようやく状況を思い出すに至った。
「美花、お前のおかげで思いついたぜこの天才が」
「今ところただの変態なんだけど・・・」
「まだ一か所探してないとこがあったぜ、センサーに引っかかってたのに」
ちょうどお昼の重箱を開けた時、息子と、息子を乗せた近所の娘さんがバイクで帰ってきたことに、冬史朗の母は気づいた。
「あら、あんたどうしたのよ。トイレ?」
「ちげーよ、もらうぜ一つ」
重箱からから揚げを一つまみ取ると、冬史朗は口の放り込んだ。
「みーちゃんは? 一つどう?」
「ありがとうおばさん!」
から揚げを食べながら、二人は丘野下家へ入っていく。
慌てて階段を駆け上がると、冬史朗は思い切り雪の部屋のドアを開けた。
そこには、ベッドで眠る雪と、そしてその横に凛として立つ、デネブが居た。曇り空のため暗い部屋の中で、ひときわ整った顔が輝く。不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「雪!!」
冬史朗はベッドに駆けつけると、雪に膝立ちでその美しい弟の顔に手を添えた。
「雪、良かったやっと見つけたぜ・・・。なんて可愛い寝顔なんだ・・・。マイエンジェル・・・」
「おい」
雪はチャイナ服姿のまま、お腹の上で手を組み、すやすやと寝息を立てている。
「・・・眠れる姫を目覚めさせるには、やはり王子様のキキキ、キッスで・・・」
「こら」
「いや、冬史朗、そういう戦いじゃなかった気がするんだけど・・・。あと、ほら、その」
美花は申し訳なさそうにデネブをちら見しながら、冬史朗に話しかけた。
「雪、今目覚めさせてやるからな」
「いい加減に」
「冬史朗、あんたの視野はどうなってんのよ! だから雪の前にほらっ・・・」
「流石の俺も、変な扉が開いてしまいそうだぜ・・・」
「おい、こら、ゴミクズ」
「冬史朗、ちょっといい加減気づかないとかわいそう・・・」
「いくぜ」
「いくな」
ぽかり、と美花は冬史朗の頭を小突いた。
「いって・・・、お?」
冬史朗は首筋になにか冷たいものが当たるのを感じた。
気づくと、冬史朗の首元に、銀色の剣が添えられていた。背後に立ったデネブから伸びた剣は、首に添えられてぴたりと止められている。
「貴様が扉を開く前に、ケリをつけようじゃないか」
冷たい目をするデネブ。状況が飲み込めず動けない冬史朗をよそに、美花の悲鳴が響いたのだった。
「きゃああああああ!!!」
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