ドラゴンライダー

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 子どもの頃に憧れたドラゴンと空は、故郷の生活では諦めるほか無いと俺は思っていた。朝早くからの農作業、作物がとれない季節には狩猟と村の人たちの道具の修理や簡単な大工仕事を請け負って、毎日毎日忙しく働いていた。男手がなく母と幼い妹が二人の家族ではそうするより他は無かった。家族のためと働くことは苦ではなく、妹も聞き分けは良く子どもらしい仕草に俺は喜び成長を慈しみ楽しんだ。  決して不幸と思ったことは一度もない。  だが、時々、農作業の手を休め腰を伸ばすときに空を見上げて、そこに存在しないドラゴンとライダーが滑空したりくるくると旋回する様子を想像した。  林の中で多いな鷹が飛ぶ音に、ハッとして上を見上げた。  ドラゴンとライダーが村の周辺に現れる予定がないか、噂話にも耳を傾けた。   「遠いサンザゴの山奥にある洞窟にはドラゴンが住んでいる」  そんな話を、ある日旅の途中で村に立ち寄った者に聞いた。詳しい話を教えてくれと、俺は旅人に詰め寄ったが大した情報はなく、更に年月が過ぎた。  妹が隣村の若者のところに嫁ぎ、母親が俺に言った。もういいから行きなさい、と。母は何もかも知っていた。  そして俺は、ドラゴンとの出会いを求めて人々に話を聞き、その場しのぎの仕事を請け負って金を稼ぎつつここまで来た。  サンザゴまでも遠い道のりだったが、山奥の洞窟までも道のりは険しく、更に暗く深い洞窟を歩いてここまでやって来た。旅人のたった一言を当てにして。  俺の旅は長かった。子どもの頃から、だ。ここでおいそれと帰るわけにはいかない。  ドラゴンが鳴き声ともうなり声ともわからぬごろごろという音を出して俺を見つめている。  脅しなのかもしれない。今はあの瞬間に「理解した」と思った心は露ほどにも感じられない。悲しいし焦る気持ちもあるが、深呼吸してこう言ってやった。 「俺はここに住む。なんせおまえさんと会いたくて山を五つも越えてきたんだからな!」  まあ、正確には山は五つではなかったがそのくらいの旅路だったということで。  鼻息荒く言ったものの、ドラゴンはフンッと鼻を鳴らして首を丸めて頭を胸に隠してしまった。  
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