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感謝(後半)
(前半から続く)
まあ民主化について言えば、技術が進むと社会活動は
豊かになり、省力化すると共に、複雑・加速化する。
そうなると政策も変わらざるを得ず、
必要とあれば大勢が動くが、衆知も活かせるよう、
国際化など広域化する一方で、民主化・自由化、
地方自治、官民協働、市民参画など分権化する。
皆でどんな社会を作るかを考えるのが仕事になる時代に、
奴隷や遊民ばかり増やしても国家的自滅行為だろう。
広大な星間帝国ではそれが一時的に退行しただけで、
実は彼女達も、それを知っていたのではないだろうか。
統一国家を確立できたら分権化も再開するため、
人類を〝お手本〟に見立てたのかもしれない。
『さらに、人類が政策的にAIを活用して
自然物と人工物の間の障壁を取り除き、
双方の長所を共有させて、惑星上における
持続的発展を達成したのも、偉大な功績です。
このことは帝国においても、場合によっては
さらに大きな種族間の障壁を取り除き、
星間文明の持続的発展を実現する、
種族間親和技術の開発につながったのです』
AIの導入も、文明発展の歴史からは当然といえる。
惑星資源・環境の限界、経済・社会の複雑高度化、
健康低下と教育の困難化、制度変更の加速化……。
ある技術段階で利害調整政策を極めたら、
その限界を越える新技術導入政策が必須となる。
彼女達はそのことも、分かっていたはずだ。
なにしろ後に、惑星文明における農耕、動力、電算、
そしてAIといった画期的技術が、
星間文明での惑星適応、高次元動力、人格量子化や
種族間融和にあたると聞いた時は、私達人類も驚いた。
言われてみれば、それらの技術は実際、
物質利用による惑星・星間文明の成立、
エネルギー利用によるその拡大、
情報利用によるその効率化、
技術と自然・社会環境の親和化による持続的発展と、
ちょうど平行的に進歩している。
技術開発の必要性や可能性の予測は難しい。
しかし開発の難易度や、社会変化・需要の動向、
惑星・銀河など環境限界との関係から予測して、
備えておけば役に立つことが分かった。
『皆様の素晴らしい貢献もあって、今や帝国は、
アンドロメダ銀河をも含む銀河間国家に発展し、
知性がもたらす文明の光が遍く行き渡る、
輝かしい繁栄を謳歌するに至っています』
『以上から、ここに私達新皇帝種族サタンは、
理事種族アスモデウス、アスタロト、ベール、
バールゼブル及びアモンの賛同を得て、
このたび量子頭脳への人格転移を達成した
人類の最先進種族認定を裁可し、
大いなる感謝と共に、祝福いたします』
やれやれ、とうとう私達も悪魔の仲間入りか。
とはいえ人類の方でも大喜びのお祭り騒ぎで、
むしろ彼女達を新たな大天使に叙任しよう、
という動きまであるという(笑)。
まあ考えてみれば彼女達は、皇帝種族を神様に
見立てた神話の中で悪役を演じるなどして、
当時の人類など多くの種族の文明化を助けた、
いわば功労者といえる。
実際には〝神〟の最も忠実な臣下だったわけだし、
善悪二元論の神話が採用される以前には、
世界各地、あるいは途上星域各地の多神教神話で、
古い神々を演じていた連中も多い。
そもそも、こうした多種族共生の流れは、
まだまだ〝新参者〟の人類には有難い話だ。
それに、ある意味では必然ともいえる
成行きだったのかもしれない。
なぜなら昔、Y.N.ハラリという歴史学者が
次のように語っていたそうだ。
『人類は高い技術を得れば、神や悪魔に近づく。
どうせなるなら〝責任のある神〟になれ』と。
そして今こそ、神や悪魔や人間、
あるいは異星種族間の区別がなくなって、
互いのために全てを活かすべき時が来た、
といえるだろう。
高度な技術と政策のおかげで、
違う誰かを悪者にして叩いたり、
不運な誰かの犠牲を忍んだり
しなくてすむ時代が、やっと来た。
人道的手段で自分達自身を高めることにより、
『汝の敵をも愛』し、
『誰一人取り残さない』ことが、
宇宙規模で可能になったというわけだ。
もしもいるなら本当の神様だって、
きっと喜んでいるに違いない。
今日は、地球暦の12月25日。
彼女達が人類にもたらした
最も有名な神話のひとつで、
救い主の誕生を祝う祝祭日である。
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