合奏

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 私も、結婚することもなく、50を越えても一人だった。そういう機会もないではなかったが、悠登とのことを思うと、相手にそれ以上の想いを抱くことはできそうもないと感じ、進展させることはできなかった。  私はというと、髪にも白いものが混じり、すっかり衰えを感じていたが、一方の悠登はまだ髪も黒々としていて、若々しかった。その人気は衰えることなく、今日のコンサートでも、大きなホールが満員になっていた。皆が悠登の演奏を待ちわびている。  ステージに上がった悠登は、観客へ一礼をすると、一瞬、ステージ脇の私のほうを見た。長くやっていたが、そんなことは初めてのことだった。  その日の演奏は、いつもにもまして情感たっぷりで、彼の持てるすべてを出し尽くしているような、鬼気迫る演奏だった。聴衆が息を呑んでいるのがわかる。  演奏を終えると、会場全体が静まりかえっていた。  あの日の私と同じ。あまりの衝撃に、頭の理解が、身体の反応が追い付いていないのだ。  しばしの静寂のあと、誰かが拍手をはじめると、あちこちから拍手が湧きはじめ、やがて、喝采とともに、大きく、雨のごとく降り注いだ。
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