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万雷の拍手を受けて悠登が立ち上がり、ホールいっぱいの観客にむけ深く、礼をする。その唇は震えていた。
拍手は鳴り止まず、悠登は顔を伏したまま、その身に賞賛を受け続ける。
楽屋まで戻ってきた悠登は、上気した顔色とは反対に落ち着いた表情をしていた。
私の視線に気づくと、悠登はこちらを見て、穏やかに微笑んだ。私は、うまく笑い返すことはできなかったが、かわりにゆっくりと頷いた。
「すまないが、片山君と二人にしてくれないか」
悠登はそう、スタッフ達に告げた。
スタッフが退出し、部屋のドアを閉めると、悠登は私のほうへ向き直る。
私は悠登のもとへ歩み寄ると、そっと彼の肩に手を置いた。
「長い間、お疲れ様」
私がそう言うと、悠登は短く、ふっと息を吐いた。
「やっぱり、君にはばれてたか」
いたずらっぽく悠登は笑う。二人のときにしか見せない、私の一番のお気に入りの表情で。
それから彼は、顔をわずかに伏せて続ける。
「音がね、最近どんどん遠のいていくんだ…。昔はそこらにあった音が、つかまえられなくなっている」
私は黙って聞いている。
「これ以上はね…もう、ごまかせないと思ったんだ…君も気づいていただろう?」
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