合奏

13/13
前へ
/13ページ
次へ
「私は…、君に、許されない嘘を…」  ずっと彼を騙し続けてきたのだ。私は、悠登に懺悔したかった。どんなに軽蔑されても、このまま、なにもなかったように彼との関係を続けていくことはできない。 「初めて会ったあのとき、私は…」  私が言いかけると、悠登は立ち上がり、私の肩に手を置くと、やさしく微笑んで首を振った。 「わかってる」  私は息を呑んだ。声がせり上がってくるのを必死で押しとどめた。 「…あのときの君の言葉に、僕がどれだけ救われたか、今まで、君の存在に、僕がどれだけ救われていたか」  悠登が言ったのを聞いて、堰を切ったように嗚咽があふれ出した。  くずおれて、泣き叫ぶ私に、悠登が寄り添う。  悠登は、私を強く、抱き締めた。  私も、悠登を強く、抱き締める。  これからは、二人を結んだ嘘も、つなぎとめていたピアノもない。  それでも、私達は離れることはないと、そう、感じていた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加