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「私は…、君に、許されない嘘を…」
ずっと彼を騙し続けてきたのだ。私は、悠登に懺悔したかった。どんなに軽蔑されても、このまま、なにもなかったように彼との関係を続けていくことはできない。
「初めて会ったあのとき、私は…」
私が言いかけると、悠登は立ち上がり、私の肩に手を置くと、やさしく微笑んで首を振った。
「わかってる」
私は息を呑んだ。声がせり上がってくるのを必死で押しとどめた。
「…あのときの君の言葉に、僕がどれだけ救われたか、今まで、君の存在に、僕がどれだけ救われていたか」
悠登が言ったのを聞いて、堰を切ったように嗚咽があふれ出した。
くずおれて、泣き叫ぶ私に、悠登が寄り添う。
悠登は、私を強く、抱き締めた。
私も、悠登を強く、抱き締める。
これからは、二人を結んだ嘘も、つなぎとめていたピアノもない。
それでも、私達は離れることはないと、そう、感じていた。
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