合奏

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 父が作業している部屋を探しに客室から出ると、吹き抜けをはさんだ向かいの部屋のドアが開け放たれていたので、そちらへ向かった。  部屋をのぞくと、父が立派なグランドピアノを前に作業をしていた。ピアノは、年季が入っていて使い込まれた感じだ。  部屋に入って、父に話しかけようとしたが、一心に集中していたので静かに見ていることにした。入ったときから気になっていたのだが、父が作業しているピアノの向こう側には、少年が一人立っている。  私の目は、すぐにその少年にくぎ付けになってしまった。  窓から射し込む陽の光を浴びて少年の髪は柔らかく輝いている。細い顎に、白い肌。  少年の周りを光が覆っているように、まぶしく感じた。 「つい見惚れてしまうだろう?」  急に話しかけられたので驚いて振り向くと、部屋の端の椅子に柳岡氏が腰掛けていた。私が、見透かされたと思い、なにも言葉を返すことができないでいると柳岡氏が続けた。 「私もね、君のお父さんの調律を見るのが毎回の楽しみで、別荘に来るこの時期に調律をお願いしているんだよ」  そう言って、柳岡氏は私に椅子を勧めた。私は自分のよこしまな視線が気づかれていなかったことに安堵し、軽く礼をしてから椅子に腰掛けた。  柳岡氏は、真剣に父の作業に見入っている。私も、父のほうを見るのだが、つい側にいる少年のほうに目がいってしまう。
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