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ピアノの演奏は、父について何度か聞いたことはあったが、今まで聞いたものとはまったく違って感じた。
彼の奏でる音がうねりをもって、私の元へ押し寄せる。
音の波に飲まれ、引き寄せられる。
ときに消え入りそうな、儚げな音に惹かれ、
ときに荒々しく迫る音になすすべもなく攻められ、
その緩急、強弱に身体が、心ごと引っ張られ、揺さぶられる。
演奏が終わって、私はその場に立ち尽くしていた。理解のできない衝撃を受けると、このようになってしまうものなのか、とそのとき思った。
父と柳岡氏の拍手の音で我に返った私は、彼を、私を虜にした音の主を見た。細い指、握り締めたら折れてしまいそうなその指先で、あのような音を生み出したのか。
私は、感銘を受けると同時に、この先彼が生み出す音の先に、自分がいないことが、とても寂しくてやりきれないことのように感じた。
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