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一拍遅れて、漫画のことを言われているのだと気が付いた。当然だ。この状況で他のことを聞くわけがない。
「あ、うん。僕も持ってるんだ…この本」
「いいよね!」
悠登がすぐに目を輝かせて言った。
それから私達は、その漫画の話で盛り上がった。
私達はすぐに打ち解け、お互いのことを悠登、信司と呼び合うようになった。初めて 信司、と呼ばれたときの、胸の高鳴りを、私は今も覚えている。
ある日の夕方、私達は庭園を散歩していた。柳岡氏の庭園はとても立派で、入り口には薔薇で作られたアーチがあり、そこをくぐると両側を薔薇の生垣に囲まれた道がある。さらにそこを抜けると、突き当たりにはちょっとした噴水があった。私と悠登はその縁石に腰掛けて、見るともなしに噴水を眺めていた。
「悠登は、プロになるの?」
私は思い切って気になっていたことを聞いてみた。
「うん。そのつもり」
「そうだよね。あんな…すごい演奏できるんだもん」
私は尊敬の念を込めてそう言ったのだが、悠登はなぜか浮かない顔をしている。
「どうした?なんか悪いこと言った?」
焦ってそう聞くと、悠登はぼそっと「父さんの夢なんだ」と答えた。
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