合奏

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 そこからの私は、死に物狂いだった。音大に入る前から父について勉強し、入学してからも寝食を惜しんで勉強して、プロの調律師になった。その頃には、悠登はすでに若手演奏家として頭角をあらわしていた。  私は悠登の側にいる為に、自分の持てる全てを使った。父のコネを駆使し、あらゆる交渉の手を使って、悠登の専属の調律師として彼の演奏について回れる立場になった。  もちろん、自分の技術に対しての研鑽は怠らなかった。そこを蔑ろにしては、そもそもの彼の側にいる意義すら失うからだ。  それからの年月は、幸せだった。その日の会場の気候、演目に合わせて、悠登がどう弾くかを考えながら調律をし、彼はそれに応えて、いつも私の想像を超える演奏を見せてくれる。  それは、さながらピアノを通して会話をしているようで、人生において、これ以上の幸せはないと感じた。  彼とは友人、仕事上のパートナーとして以上の関係はなく、彼には噂のある相手は何人かいたが、決まった相手はいなかった。
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