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サー連の美しき変人
「───」
「もうえぇがね!」
「ありがとうございましたぁー!!」
* * *
「今回のネタもいいじゃん、ファニーエンジェルス」
6月のある水曜日。
稽古が終わって部室を片付けていると、会長で4年の山田先輩がやたら滑舌良く声を掛けてくれる。
「ありがとうございます!」
俺が言うと、相方兼クラスメイトの相田が
「先輩の噺も良かったっす!」
と言う。
「そりゃどうも。で、お前らそのネタで次の定例寄席出るの?」
「はい!そのつもりです!」
「そっか、楽しみだな。じゃ、お先に」
そう言って山田先輩は俺達の肩をぽんと叩き部室を出て言った。
「お疲れ様です!」
俺─大澤たつるは大学2年。
大学の落語研究会─落研で相田と「ファニーエンジェルス」というコンビで漫才をやっている。
プロを目指してる
というわけではないが、大学祭や3ヶ月に一度の会の定例寄席ではそこそこ笑いが取れている…と自分等では思っている。
そう言う意味では『ただの趣味』というより、それなりに誇りを持ってやってるつもりだ。
「おし!片付いた」
「じゃ部室の鍵返しに行くか」
俺達は部屋の鍵を閉め、部室長屋の端にある『サークル連盟室』を目指す。
サークル連盟─通称 サー連
部室長屋の管理や大学祭を取り仕切る学生自治組織だ。
コンコン、ガシャッ!
重い金属の扉を開ける。
「失礼しまーす」
「……」
灯りは点いているが返事はない。
「落研ですけど、誰かいませんかー?」
呼び掛けると、
ゴソゴソ…
パーティションの向こうから音がし、
「あー…ここだ、ここ」
としゃがれた声がした。
「あのー落研ですけど部室の鍵預けに来ました」
「あー、中入っていいから持ってきて」
「はい…じゃ失礼します」
言われたままに相田と室内に入り、パーティションの向こうへ行くと、アンティーク、というか既に壊れかけたソファに白衣姿の人が寝そべっていた。
その人物がゆらり、とソファから起き上がる。
「!!」
ぼさぼさに束ねられた長い髪に曇った眼鏡。着ている白衣は染みだらけ─
(ホラー映画かよ!?)
異様な様相に思わずたじろぐ。
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