プロローグ

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プロローグ

Attention この作品は、アイドリッシュセブンをベースにした創作小説です。 本編のネタバレを含みます。 作者の勝手な解釈やオリキャラなど、本編とは違った設定の物が多く含まれます。 苦手な方、解釈違いの方などはお控えください。 そのような苦情は受け付けかねます。 どうぞ、自衛を。 ここまで読んでくれてありがとう! 問題ありませんね? それでは、作者のアイナナ世界をお楽しみいただけると幸いです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「…どういうことですか。契約と違います。」 ツクモプロダクション、社長室。 そこでは、黒髪の青年が怒りを堪え、目の前の社長と思しき人物と対峙していた。 「私はこんな事をする為に、この世界に来たわけではありません。ともかく、契約違反だ。」 青年の手には、1枚の紙。 声を上げると同時に立ち上がり、正面に座っている人物を睨みつける。 「そう言うなよ。受けてくれるだろう? どちらにせよ、今も君に仕事を選ぶ余裕なんて無い。そうだろう?」 「いいえ、受けませんよ。ご自分が提示した契約内容を確認してください。失礼します。」 タンッ 少し強めに、持っていた紙を硝子テーブルに叩きつけ、青年は扉に向かう。 「…残念だなぁ。君には、期待していたのに。」 背中に向けられた声には、まるで青年を嘲笑うような、そんな空気が含まれていた。 「僕は、君をいつでも解雇できるんだ。…覚悟はできてる?」 その声に、青年は振り返り、 自嘲するような笑みを浮かべ、堂々と、はっきり告げた。 「えぇ、いつでも構いませんよ。後悔するのは貴方の方だ。」 では、失礼します。 その音に、扉が閉まる音が重なる。 1人残された人物は先程の余裕そうな笑みなど忘れて、苛立ちにまみれた表情で扉を睨みつけていた。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「…で、解雇されたと。」 「えぇ。どうしようかなぁ…。」 “Cafe&Bar, strangeness”にて。 定年を過ぎた祖父が始めた、大通りからは少し離れたところにある喫茶店だ。 10時から18時までは喫茶店、19時からは酒場として営業している。 時計は午後9時を指していた。 黒髪の青年はグラスを磨きながら、 もう一方の、客と思われる男性と話している。 「いやぁ、早かったですよ、何時間後だっけな電話きたの…。」 「はは、よくやるじゃないか。」 たわいも無い会話が…と言いたいが、内容は如何せん重い。そう易々と笑い飛ばせるものでは無い筈なのだが、このふたりは先程から変わらず、愉快そうに笑っている。 「でも梗君の実力なら、直ぐに新しい事務所見つかるんじゃないか?」 「そうだといいんですけどね。まあ、暫くはこれまで通り、ここお世話になりますよ。」 苦笑いをしつつ、そう零す。 相手の彼が何か言いかけた、のだが。 カランカラン、 と、扉のベルが軽快な音を立て、その音をかき消してしまった。 それでは。 と短く挨拶をし、梗は扉に近い場所に移動した。 「優衣さん、カウンターお願いします。」 「はーい。梗、時間気をつけて!」 「うん、ありがとう。」 短く会話をし、ポジションを交代する。 理由は簡単だ。 入店客が、常連、加えて上客だから。 入口附近にはには、スラリとした体型に険しめな顔、そしてそれを助長する銀縁眼鏡をかけた中年男性と… 「久しぶりだね梗君!!元気にしてた?」 「下岡さん!お久しぶりです。」 そう、あの有名MC、ミスター下岡。 彼がこの店の常連客であり、上客なのだ。 「共演してから暫く経っちゃったね。あの回の評判本当に良かったんだ。」 「会う度に言ってくれますね!ありがとうございます。」 「また共演できるのを楽しみにしてるよ!」 「はい、機会がありましたらよろしくお願いします。」 …お席は、カウンターよろしいですか?お連れ様もいらっしゃいますし、個室をご用意致しましょうか?」 「個室をお願いしようかな。」 「わかりました。ご案内します。」 そう言って歩き出す。ここまでは普段と差程変わらない。 が。 …まだ、視線が、痛い。 この視線は、彼のものだ。あの、白髪の。 下岡さんの連れ方。 先程の下岡さんとの会話中もずっと、こちらを凝視しているのがわかったのだ。 それでも、そんな事には気づかない振りをして歩く。 視線には、ある程度耐性があるし。 「…こちらです。それでは、ごゆっくり。」 ニッコリと営業スマイルを残し、そそくさと立ち去る。 彼と関わったのは、この一瞬だけ。 ーーー この日は、なんの変哲もない、平凡で、平和な1日のはずだった。 何かあったと言えば、事務所に解雇されただけで。 それは梗にとって、差程重要なことではなかった。 元々、契約終了日は迫っていたから。 あの後も病院に行って、祖父と会話して。 「また来る。」 そう言って、去った。 祖父はにこにこ笑っていた。 「梗。」 名前を呼ばれ、振り返って、手を振られ、振り返して。 笑ってその場を後にした。 ーーー プルルル… 静かに着信音が響く。 何故か、とても嫌な予感がした。 今日の祖父との会話が、フラッシュバックする。 「梗君!!梗君来て!!!」 唐突に店内に響く、優衣さんの声。 嫌だ。聞きたくない。 それでも、理性は許さなかった。 少し焦ったような声色に触発され、急ぎ足でカウンターに向かう。 「どうしました?」 「電話、あの、オーナーの病院から…」 その言葉に、一気に悪寒が身体中を駆け巡った。 優衣さんから受話器を奪い取る様にして受け取り、すぐさま耳に当てる。 「ただいま変わりました。孫の梗です。 祖父の事、ですよね…?」 恐る恐る紡いだ言葉。 少し、震えていたかもしれない。 本当は聞きたくない返事を求めて、無意識に唾を飲み込んでいた。 告げられたのは、祖父の訃報。 目を見開いて佇む梗を、優衣と、先程の白髪の男性が、それぞれの眼差しで見つめていた。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー あれから、数日。 喫茶店のカウンターで、梗と優衣が向かい合っていた。 優衣がカウンター、梗は客席に座りスマホを眺めている。 優衣は、梗の従姉妹だ。 とある事情で両親を亡くしたこの2人を、祖父の賢二が引き取り、育てていた。 「店は、優衣が継いでくれるって事でいいの。」 何度目だろう。梗は優衣を見て、小さな声で問う。 「うん。私が継ぐ。」 優衣ははっきりと、真っ直ぐに梗を見て答えた。 それから、2人、徐に笑い出す。 小さく。お互いを見たままで。 あぁ、なんて現実味のない! まるで小説のようだ。いや、誰かが死ぬなんてきっと、日常なのだ。それが自分の身に降りかかった途端、どうしてだろう、こんなにも苦しいなんて。 「…うん。じゃあ、僕も、ちょっと頑張ってみるよ。」 笑って零れた涙を拭って、言葉を続けた。 「私も居ていいの?もうすぐでしょ、あの人が来るの。」 「大丈夫。許可は取ってある。」 それに。 「見てて欲しいんだ。僕の決意を。」 とうに、覚悟は決めてある。 カランカラン 彼を初めて目にしたあの日のように、扉が軽快な音を鳴らす。 そこに立っているのは、白髪の男性。 ー八乙女宗助。 梗は立ち上がり、笑いかける。 「お待ちしておりました、八乙女社長。」 僕の目を見て、彼は不敵に笑った。 「あの話の、結論を聞きに来た。答えは決まったか? …TRIGGERに、入るか否か。」 笑みを消し、意図的に、真剣な顔をして。 「えぇ、社長。 TRIGGER、やらせてください。」 真っ直ぐ、彼を見つめる。 社長は真顔のまま、僕の覚悟を見極めるかのように、目を捉えて離さない。 そして、満足そうに笑った。 「その答えを待っていた。 ようこそ、八乙女事務所へ。 歓迎しよう。誉士太、梗。」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー そして、雪の降るあの日。 僕は運命に出会った、のだろう。
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