続・変わらない想い 〜天国からのメッセージ〜

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 高校2年生のときに付き合っていた彼女・槍崎晴香(うつぎざきはるか)を不慮の事故で亡くした江東裕也は、高校を卒業し、この春晴れて東京の私立大学に進学した。引っ越しの際には、家具や冷蔵庫、洗濯機、テレビなどの家電製品に加え、晴香の写真を持って上京した。  大学生になってからというものの、亡き恋人への想いは変わらず、晴香の写真さえあれば一人暮らしなど寂しいものではなかった。もちろん、入学してからも新しい彼女をつくることは決してなかった。  「おはよう、晴香。今日も行ってくるよ。」  裕也は毎日、晴香の写真に声をかけてから登校している。まるで俺のことを見守っていてくれと言っているかのように。またときおり学校帰りの途中に花を買ってきては写真に手向け、付き合っていたころとなんら変わりない愛を伝え続けているのだった。  そして大学生になってひと月になるころだった。裕也のケータイに1通のメールが届いた。いつものようにメールの送り主を確かめてみると、なんと亡くなったはずの晴香からだった。不思議に思いながらもメールを開いてみると、そこにはわずかな文が書かれていた。  「裕也、ありがとう。愛してるよ。」  裕也は誰かのいたずらではないかと思い、まず晴香の母親に電話して聞いてみた。  「もしもし、晴香のお母さんですか?実は、今日俺のケータイに晴香からのメッセージが来たんですけど、失礼ですけどいたずらとかじゃないですよね?」  裕也の質問に対して晴香の母親は  「いいえ、私全然そんなことしてませんよ。それに晴香のケータイはとっくに解約しているわ。」と答えると、プツリと電話を切ってしまった。  もしかしたら友達が晴香の名前を使ってメールしたんじゃないだろうか。そう思った裕也は何人かの友達にメールや電話で聞いてみたが、やはり誰もそんなことはやっていないとのことだった。  でもそうだとしたらどうして亡き晴香からメールが来たのだろうか。あり得ない出来事に、裕也は何がどうなっているのか理解できなかった。そうしているうちに一晩が過ぎようとしていた。結局メールが来た理由がわからないまま、裕也はベッドに潜り込んだ。  そして夜が開け、目が覚めると、裕也は確信した。あれはもしかして、晴香が天国から送ってくれたのではないかと。実は晴香が亡くなってから、裕也は時々、返信してくれないとはわかっていながらも、晴香にメールを送り続けていたのだ。天国できっと読んでくれると信じて。それを思うと裕也は久しぶりに涙がこぼれた。  それから2週間後、裕也のケータイにまた晴香からのメールが届いた。前に届いたものと同じ文章だったが、それを見た裕也は、晴香があの世で成仏している思うと安心した。  それからというものの、裕也のケータイには1ヶ月に一度のペースで晴香からのメッセージが届くようになっていた。まるで晴香が「わたしを忘れないで」と言っているかのように。内容は相変わらず同じだったが、それが届くたびに、裕也はしだいに笑顔になっていった。  「晴香、死んでからも向こうで俺のこと、忘れないでいてくれてたんだな。」  そう思うと、それまで気を落としていた裕也もしだいに元気を取り戻していった。  そして1年が経ち、裕也は大学2年生になった。裕也のケータイには、相変わらず1ヶ月ごとに晴香からのメッセージが届くようになっていた。それに対して裕也は、わざわざ返信を送り返すことはしなかった。そのうちまた天国からメッセージを送ってくれる。そう信じて、そっと晴香からのメッセージが届くのを待つことにしたのだった。  そしてその年のお盆に、裕也は久しぶりに晴香の家を訪ねた。仏壇に線香と花束を供えて手を合わせると、裕也は今までに届いた晴香からのメッセージのことを晴香の両親に話した。すると驚くべきことがわかった。  「実は、あなたが電話をくれてから、私たちのケータイにも、なぜか晴香からのメッセージがひと月ごとに届いていたの。お父さん、お母さん、ありがとうって。私たちも晴香が向こうで読んでくれると思って返信しようか迷ったのだけど、そういうことはしなかったわ。そのうちまたあの世から送ってくれると思ってね。無事に成仏してくれてると思うと、メッセージが届くたびに、私たちも自然と笑顔になっていったわ。」  なんと裕也だけでなく、晴香の両親にもメッセージが届くようになっていたのだ。信じられない事実に、裕也は驚いたが、その後裕也は、生前の晴香との思い出を晴香の両親に話した。  「晴香と一緒にいた2年間、それはとても楽しく幸せな時間でした。放課後一緒に帰ったり、休みの日に遊びに行ったり、そのたびに僕はどれだけ幸せをもらったことか。たまに僕がうまくいかなくて落ち込んでいても、晴香が優しく励ましてくれました。本当に何と言っていいか。晴香には本当に、何回感謝しても、足りないくらいです。お父さん、お母さん、今まで本当に、本当にありがとうございました。」  裕也がそう言うと、晴香の両親は思わず涙が止まらなくなった。  「お礼を言うのは私たちの方よ。あなたがいてくれたおかげで、晴香はきっと幸せだったに違いないわ。今日あなたがわざわざお花を持ってきてくれて、晴香もきっと喜んでいるわ。本当にありがとう。」  ここに至って、裕也はあることに気付いた。晴香は残された者たちが悲しまないように、あの世からメッセージを送ってくれている、それから勇気づけられたのは、自分たちなのだということに。  裕也はもう一度仏壇に手を合わせると、晴香の両親にお辞儀をし、家路についた。  それからというもの、裕也のケータイにはひと月ごとに晴香からのメッセージが届き続けた。メッセージが届くたびに、裕也は自然と晴香が一緒にいてくれているように思えてきた。  「晴香、向こうでは元気に幸せにしてるか?俺、晴香が送ってくれるメッセージのおかげですごく勇気づけられたよ。ありがとう。」  今でも、天国からメッセージを送り続ける晴香。それはいつしか裕也の心の支えになっていた。  次はいつメッセージが届くのだろう。そんな思いを胸に、裕也は学校用カバンを手にいつものように大学へと出発したのだった。 (終わり)
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