秘密の海岸

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 道路脇の林の道に入って海岸線をひた進めば、彼女の家はすぐに見えてくる。砂利と雨水がタイヤに跳ね返って、僕へようこそと歓迎した。  仲の良い異性の幼馴染と聞けば、誰もがロマンチックな何かを期待するだろう。御多分に洩れず僕自身がそうだったけど、結局彼女と友達以上に進展することは全く無かった。ただ、さっき電話を受けた時にも感じたような「もしかしたら」を味わったことは、正直に言うと数え切れない。もともと人懐っこい彼女だったから、僕がそう思ってきたのも無理はない、と、強く言い訳をしたい。  結婚して町を出る。物理的にも、精神的にも、君は遠くへ言ってしまう。こうなる前にどこかのタイミングで僕が一歩踏み込んで、好きだ、なんて月並みな言葉で、僕を君の特別にしてもらえていれば、結果は変わっていたのだろうか。今となっては、わかるはずもないことだった。  そんな、確証も無い子供じみた後悔をかき消すように、ペダルを漕ぐスピードを徐々に上げる。大学に入ってからは少しずつ疎遠になって、社会人になってからは年に1回会えれば多い方になっていた。だけど、これからはもう、会えなくなるかもしれない。物心ついた頃から、ずっと一緒に過ごしてきたのに?  海岸線を少し進んだ先、砂浜との境目には崖があり、ちょっとした入江のようになっている。洞窟というにはあまりに狭い窪みだったけど、そこに昔から古びた青い帆のヨットが置き去りにされていた。小学生の頃ある日僕は家出して、そこに隠れて半ベソかいて隠れていた。空が暮れなずんで心細くなった頃、君は差し入れだって言ってやってきて、ビスケットを僕に渡してくれたっけ。たった二つ違いなのに、今思えばあの頃の君は随分お姉さんぶっていたなと、思い出し笑いをする。
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