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カーブした海岸線を過ぎると、道沿いの砂浜に赤い屋根の見張り小屋が見える。今改めて見ると本当に小さな小さな、廃屋だ。僕が中学一年の頃二人でプールに行った日、帰り道突然の夕立に襲われて、ここで雨宿りしたっけ。びしょ濡れの僕らには気休めにもならないハンカチを出して、君は僕の顔を黙って拭いてくれた。あの時も君はきっとお姉さんぶっていたと思い出したが、今度は、なぜかわずかに目頭が熱くなる。まだ笑える方がマシだ、と僕は思った。
雨足の強くなってきた海岸線をさらにひた走ると、小高い丘に彼女の家を見つける。感傷に浸っている場合じゃない、これから彼女に会うんだぞと、頭をブンブン振り回し、気を確かにする。小雨だからと傘を持たずにやってきた僕の体を、しとしと、しとしと、濡らす雨。幼い頃から僕らをずっと見守ってきたこの空が、自分の代わりに泣いてくれているんだとしたら、ほんの少し、胸の痛みが和らいだ気がした。
丘の上のインターホンを鳴らす。応答は無かったが、代わりに開けっ放しにしている窓の奥から、彼女がバタバタと準備をする音が聞こえた。白いログハウスのような三階建てのこの家に、今は彼女とお袋さんしか住んでいない。
「早かったね」
鍵のかかっていない玄関のドアを開けながら彼女が言った。赤いリボンの麦わら帽子に、真っ白のワンピースがよく似合っていた。
「今からって、言ったから。近いもん」
「自転車、前に停めてて。裏から海岸に降りよ」
そう言うと、僕の答えを待たずにさっさと家の裏に回っていく。やっぱり彼女は、ちょっと勝手だ。さっきまで降っていたのは通り雨だったようで、もう雲の切れ間から光が差し始めている。これから晴れていきそうだ。
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