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「いらっしゃいませー」  私が店に踏み入れると、女性の元気な声が奥から聞こえた。  小さな店内に色とりどりの花々。人ひとりが通る程度の通路しか動けるスペースは無さそうだ。  いくつもの花々がフェロモンを撒き散らすような匂いが鼻をつく。花屋に馴染みのない私にはあまり好ましい匂いじゃない。  店の奥から女性が顔を見せる。初めは店員らしい柔らかい表情だったが、入店したのが私だと気がつくと表情を崩し「なんだあんたか。冷やかし?」と悪態をついた。 「私だって女なんだから、花だって嗜むよ。悪い?」  見慣れないエプロン姿の、同じ大学に通う見慣れた友人に軽口を返す。 「嘘ばっかり。花に興味が無いって顔してる。花屋ならそれくらい見分けられるの」  そう言われ、私はガラスの反射で自分の顔を確認した。目つきの悪い不機嫌そうな女。確かに花の似合いそうな女の顔じゃあない。花の好きな人はもっと柔らかい表情をしているだろう。……あの子のように。  ガラスを睨みつける私を見て、友人は「嘘、冗談。あんたはすぐ真に受けるから、からかい甲斐があるわ」と笑った。 「で、その花に興味のないあんたが、花屋になんの用よ?」 「花屋なんだから、花を買いに来たに決まってるでしょ」  私がそう言うと友人は「そりゃそうだ」と納得した。 「どんな花をご所望でしょう」仕切り直して、店員然とした畏まった口調で友人は言う。 「人に贈るの。綺麗なのが良い」  私の注文を聞くと、友人は堪えきれずに噴き出して笑った。 「あんた、ケンカ売ってる? 花は綺麗なの。それに、汚い物を他人にプレゼントするはずがないでしょう。二十歳にもなって、子供じゃないんだからもっと具体的に」  そう言われて、私は困ってしまう。他人に花を贈るなんて初めてなので、どういった花を選ぶのが相応しいのか検討もつかない。  今日、あの子に花を贈ろうと思ったのだって、ただの気まぐれ。思いつきだ。花の好きだった彼女の門出の手向けには、花を贈るのが相応しいだろうと考えたのだ。私らしくは無いが。 「私は詳しくないからさ、適当に選んでくれない?」
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