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彼女は流行りのファッションやお菓子、恋愛の歌だったりといった可愛らしいものが好きだった。特に花と花言葉が好きでよく私に話してくれた。ロマンチストだ。彼女のおかげで、私は色々な花の名前とその花言葉、花言葉はやシチュエーション、国によっても変わるのだと教わった。
自分にはない女の子らしさを持った女の子。女の子の匂いを周囲に振りまく子。
かと思えば、二人きりになると、急に大人びた表情になる時があった
そういった時は決まって「あーあ。このまま時間が止まってしまえばいいのに。そうすれば卒業なんてしないで、ずっと先輩と一緒に居られる。現実も見なくて済む」と私ではなく遠くを見つめながら言った。
「なに黄昏れて気障なこと言ってんのよ」
悪態をつきながらも私は彼女に見とれていた。そこに居るのに、何処か遠くに存在しているような、急に気配が希薄になり、瞬きしたら次の瞬間には消え失せてしまうような雰囲気。私は舞台上の彼女以上の魅力を、そういった時の彼女に感じていた。
ナルシストな冗談かとも思っていたが、今思い返せば、彼女は本気で言っていたようにも思える。思春期特有のピーターパン・シンドロームだったのかもしれないけど。
――そんな彼女が私は苦手だった。
表面上は仲良くしていたし、直接彼女に嫌いだと告げたこともないから、周囲の部員は気がついていなかっただろう。彼女本人は気がついていたかもしれないが、それでも私にそれを感づかせることなく、懐いていたように見えた。
高校の三年間で、私の機嫌が悪かった時に、何度か突き放すような言葉も投げつけた。今思い返せば酷い八つ当たりだ。けれど彼女は「愛のムチですね」「もう先輩はツンデレなんだから」と冗談めいて受け流され、抱きついてきた。彼女の温かい体温に私は責め立てられているような気がした。それでいて、彼女はまだ許してくれていると安堵していた。そういった日は帰宅してから、感情を彼女にぶつけてしまったことに自己嫌悪した。
私の卒業式の日。演劇部の送迎会が終わってから、彼女は一緒に帰ろうと私を誘った。彼女とはよく一緒に下校していた。
連絡先も交換して、明日、いや次の瞬間には連絡できてしまうような間柄だろうに、卒業式だからと泣いて別れを惜しむ同級生も居たけれど、彼女は感傷的にならないドライな子なんだと、いつも通りに誘う彼女を見て私は思った。
その考えはすぐに裏切られてしまうのだが。
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