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「いらっしゃいま……、あ、いかがでした? 話し合いは?」
不動産屋の自動ドアが開くと、先に帰っていたさっきのお姉さんが、うかがうような笑顔で問いかけてきた。
「あの、私、辞退します」
「えっ」
お姉さんは一瞬絶句する。
「お話し合いで、そういう結果になったんですか?」
「いいえ、話し合いは平行線……私、疲れちゃったんです」
お姉さんはがっくりしたが、努めて笑顔で続けた。
「そうでしたか。お役に立てなくて。もし他にお部屋をお探しでしたら……」
「いいえ!」
私は強くさえぎった。
「あの部屋じゃなきゃ、駄目だったんです。でも、もう、いいんです。すみません!」
そう言って、私はお店を飛び出した。なぜだか涙が頬を伝っていた。
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