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『ええ、そうでしょうね。ご存じないのも無理はありません。これは非常に珍しい花なんです。……達夫さん、この花の名前は「アポロニアン・パリス」と言うんです』
『……花の名前なんて僕にはどうでもいい話です。陽子に裏切られ、家族をすべて失った。僕はこれから、どう生きれば――』
『いいえ、達夫さん。この花の名前が――その花言葉がとても重要なんです。聞いてください!』
達夫としては、自分を騙し家族を皆殺しにした女の残した花の名前など、心底どうでもいいはずだ。
けれども名探偵は、その花の「花言葉」が重要なのだと必死に食い下がる。
『達夫さん。アポロニアン・パリスの花言葉はね……「たとえ禁じられても貴方を愛す」なんですよ。先程も言った通り、これは珍しい花だ。陽子さんが偶然に飾ったとは考えにくい。――これは、彼女から貴方へのメッセージなんですよ!
陽子さんは恨むべき貴方を……腹違いの兄と知っていてもなお、愛してしまったんです!』
『……陽子』
この世の悲哀を全て込めたような達夫の表情が大写しになり――暗転。スタッフロールが流れ始めた。
……確かに、そこそこ良く出来た映画だった。けど、後味は最悪だ。
母は「伝説の映画」と言っていたけれども、そこまでの名作とはとても思えない。だから私は、忌憚のない感想を母に漏らしていた。
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