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「気付いたみたいね? そう、『アポロニアン・パリス』なんて花はね、元々存在しなかったのよ。映画に出てくるのも良く出来た造花らしいわ。花言葉もね、ラストシーンに合ったものを捏造しただけらしいわよ」
「えっ!? それって有りなの……?」
「そこら辺も含めて『伝説の映画』って訳よ。――実はね、この映画の公開日は四月一日だったの」
「あ、エイプリルフール……?」
私はよほど間抜けな顔をしていたのか、母がニンマリと笑いながら「ご名答」と言った。
「この映画、タイトルにある『空言』って言葉が、ダブルミーニングになってるのね。陽子が重ねた幾つもの嘘という意味と、そのままズバリ『嘘っぱちの花』という意味と。監督の茶目っ気ね」
「……今やったら炎上間違いなしだね」
「あはは、当時も今で言う『炎上』に近い騒ぎになったわよ? 映画を観た内の結構な数の人達が、花屋に『アポロニアン・パリスって花はありますか?』って問い合わせたらしいから、それはもう大騒ぎよ。当然、映画会社にも監督にもクレームが集中したわ」
「ああ……」
何となく、その時の光景が目に浮かぶようだった。
母が若い頃にはまだ、インターネットも無かった。「アポロニアン・パリス」という花が架空のものだと知らぬまま、花屋に買い求めた人が出てもおかしくはない。
――いや、インターネットがある今なら、また別の騒ぎになるかも。
誰かがふざけてありもしない「アポロニアン・パリス」の解説ページでも作ったら、それを本物だと思う人が出てくるかもしれない……。
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