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アポロニアン・パリスの花
『達夫さん。その花の名前をご存じですか?』
『いいえ。あの女が……陽子が勝手に置いていった物です。私が知る訳ないでしょう』
――映画は結末を迎えようとしていた。
テレビから流れているのは、「空言の花」という母が若い頃に流行ったらしいミステリ映画だ。久しぶりのテレビ放映ということで、母は先程から画面に釘付けだった。
物語はそれほど複雑ではない。
とある富豪の家に、陽子という若い家政婦がやってくる。陽子はその美しさと器量の良さで、その家の長男である達夫を夢中にさせ恋に落ちるのだが――それは陽子の罠だった。
実は陽子は、達夫の父が愛人に産ませた娘で、達夫の腹違いの妹なのだ。
陽子は自分と母を捨てた父親とその一族に恨みを持っており、家政婦の立場を利用して一族の皆殺しを画策していた。
その計画は順調に進んでしまい、陽子の正体がバレぬまま、達夫の家族は一人また一人と謎の死を遂げていく。
しかし、いよいよ達夫が残された一人となったその時、名探偵が現れ鮮やかに事件を解決する。
今流れているのは、陽子が無言のまま警察に連行され、残された名探偵と達夫が会話するラストシーンだった。
名探偵が、豪邸のリビングに飾られていた向日葵にも似た黄色い花を指さし、達夫に「その花の名を知っているか?」と尋ねたところだ。
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