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誰もが息を飲んだ。子供達と空に間には、空気が時間に張り付いたように、柔らかに大地を舐める春風すらその場に留まることを余儀なくされた。
瞬間、翔太は閉じていた瞳を目いっぱいに開いた。同時に、身体の中心が何やら熱くなっていくのを感じた。
障害を持つ子供達、それは僕達のことなのだろうか。僕達は特別な人間なのではなかったのか。
翔太は助けを求めるかのように咲希に目線をやると、咲希はただぼう然と空を見つめ、その目にはうっすらと涙を浮かべていた。
追い打ちをかけるように、見知らぬ声が子供達の頭の中に響き渡る。
(驚かないで聞いてほしい。君たちは病気なのだ。『後天性電脳障害』というもので、普通の人間には見えない電波や電磁波が見えるのだと、そしてそれを体に受けると体に悪い影響を及ぼすのだと思い込んでしまうような、心の病気なんだ)
子供達は各々不安をもらしていた。
(僕たちは病気なの?)
(助けてくれるのかな?)
(お母さん……怖いよ……)
そんな子供達の動揺を無視して、あの声が一方的に頭に語りかけてくる。
(でも安心してほしい。そんなくだらない心の病気はすぐに治る。一年間、私達の下で生活をすればきっと良くなるんだよ。さあ、私達と一緒に病気を治して、早く普通の人間に戻って、お父さんやお母さんを安心させてあげましょう)
病気、という言葉を受けて、何人かの子供達は泣き崩れている。咲希は立ちすくみ、そして瞳いっぱいに溜めた涙を一粒だけ零した。そんな咲希を見た翔太は、咲希の手を握り、
(大丈夫)
と、頭の中で伝えた。
翔太が周りを見渡すと、草葉の陰に紛れた迷彩服の人間を見つけた。一人、二人と、次第に数を増して子供達を囲んでいく。すると近隣の住宅からも、一本、二本と、赤い光が空を照らし始めた。
(くだらない。ただの妄想癖の子供だろ)
(なんで病気のやつらの為に、おれ達正常な人間の生活が影響を受けなければなんないの?)
(早く捕まえて塀の中にでもぶち込んでおけばいいのに)
(一種の宗教みたいなものなんじゃない)
(何にせよ、気持ち悪いから早く終わらせてくれないかな)
(いっそのこと、殺しちゃえば?)
アジサイ公園の近隣に敷かれた一時退去命令に背いた人々が、痺れを切らしたように各々携帯電話で愚痴を零している。
そんな心ない言葉を受信した翔太は泣きたくなった。けれど、涙は零さなかった。驚き、戸惑い、悲しみ、そして心の奥底から湧き出てくる、希望。そう、僕達は、選ばれた人間なんだ。翔太は叫んだ。
(大丈夫!)
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