1/3
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

 幼稚園の帰り道、翔太は急に足を止めて空を見上げると、何かを避けるように道の右側の壁に体をいっぱいに寄せた。そんな様子を見ていた母親は、翔太に見つからないように小さくため息をついてから、何も言わずに、慣れた様子で翔太の手を引いた。翔太は手を引かれるがままに、これもまた慣れた様子で、何を抵抗することもなく歩みを再始動させた。  家に帰ると、翔太は颯爽と自分の部屋に閉じこもる。そしてそのまま、ご飯、おやつ、トイレ、お風呂といった生活に最低限必要な時間以外のほとんどの時間をそこで過ごす。  部屋にはゲーム機や携帯電話、パソコンといった、現代の子供達が多くの時間を費やすような電化製品の類は一切なく、絵本を眺めたり、積み木で家を作ったりして、一日の内の自由な時間のほどんどを過ごすことになるのだが、これは翔太の為であることを母親も、翔太も十分に理解していた。  自閉している訳でもなければ、発達に障害がある訳でもない。ただ翔太は、電磁波を発するような機器に長時間照らされていると、頭が痛くなり、酷い時は嘔吐してしまうのだ。テレビでさえ十メートルは離れて見なければ体に影響が出てしまうので、翔太がリビングにいる時は必ずテレビは消される。携帯電話を使う時は必ず外で使用する。パソコンを利用するにしても、電波を飛ばさないようブルートゥースもオフにされている。  これがこの家の当たり前であり、日常なのである。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!