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 もう一度、翔太はその言葉を咲希に、皆に伝えると、自然と咲希の手を握る手に力が入った。その瞬間、翔太は脊髄の辺りに違和感を感じて、振り向き、そして見上げると、白いヘリコプターからカメラが向けられているのを見つけた。すかさず流れ出る電波に意識を集中すると、女性アナウンサーの滑舌の良い声を受信した。 (もうすぐここアジサイ公園では、警察、自衛隊の合同作戦による電脳障害を持つ子供達の一斉確保が行われようとしています。辺りは静けさに満ちておりますが、どうやら電脳障害を持つ子供達は頭の中で会話をすることができるようで、はいそうです、一般的にはテレパシーと呼ばれている特殊な能力でして、今もなお水面下で警察が説得にあたっているのです。今日ここに集められた子供達は、警察から発せられた特殊な電波を受信することができたという、病気の子供達なのです)  カメラを向けられた時のこの違和感は、小さな頃から感じ続けている苦しみなんだ。嘘でもなければ、病気なんかじゃない。僕達は、選ばれたんだ! 翔太はキッとカメラを睨み付けた。  すると、ヘリコプターで撮影をしていたカメラマンは急にカメラに違和感を感じて、ファインダーから目を離した。カメラはグングンと熱を持ち始め、異音を発し、そして煙と共に火を噴いた。 (皆、聞いて!)  翔太の突然の言葉に、子供達は顔を上げた。咲希も心配そうな顔で翔太の横顔を静かに見つめていた。 (大人達は僕達のことを病気だという。それはそうだよね、大人達は僕達のような苦しみも知らないし、知れないことは正しくないことだと決めつけてしまうんだもの。病気だと言って僕達をのけ者にして、悪者しまえば楽チンだもんね)  咲希や子供達は固唾を飲んで翔太の次の言葉を待った。翔太は微笑みを称えてから続けた。 (でも、僕達は『かわいそうなぞう』じゃない、人間なんだ。大人達や、普通の子供達よりも苦しんできた人間なんだ。それに、いつの日か、僕達のような人間が沢山産まれてきてさ、普通の人よりも多くなってしまったら、一体どっちが正しい人間になるのかな。だから、だからさ……僕達が今できることを目一杯したいと思うんだ)  翔太はそう言うと、身体の中心から湧き上がる確かな熱量がグングンと増していくのを感じていた。不思議と、恐怖は感じていなかった。  子供達が頷き始めたその時、迷彩柄のヘリコプターがグンと高度を下げた。 (『ゼロ』、カウントダウンカイシ。十、九、八、七……)  子供達がざわつき始めた。 (六、五、四……)  翔太の手を握る咲希の手が震えていた。周りの子供達も同様であった。翔太は不安を浮かべる子供達の顔を見てから、咲希の手を力強く握ると、ニコリと満面の笑みを浮かべた。 (三、二、一……)  翔太は一点の道を指差して、 (走れーーーーー!)  子供達は翔太の指先から発せられた真っ白な光のトンネルの中を一斉に駆けだした。 ◆◆◆ 完結 ◆◆◆
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