side~瑞月~

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side~瑞月~

「かあさん、これ――」  テレビに映ったラジコンを指さして、双子の兄太陽(たいよう)が振り返った。サラサラの髪が爽やかに揺れる。僕とは違って輝く兄は、名の通り太陽のようで綺麗だな、と思った。その兄の特徴である父譲りの釣り目が僕を視界に捉えるなり、顔を曇らせた。 「瑞月(みづき)、顔色悪いぞ」  ハッとして顔に手をやる。触れた頬はひんやりと冷たくなっていた。慌ててストーブの前に近づくと、テレビを消して傍に来るなり僕の額に手を当てる。 「またか……」  太陽の手がいつもより冷たくて気持ちがいい、と思ってしまった。それはつまり熱があるということである。呆れたようにため息を吐いた太陽。キッチンの前のテーブルで作業をしていた母がチラリとこちらを向いて、困ったように眉根を寄せつつ立ち上がった。  一度冷蔵庫から冷やした水のペットボトルと冷えピタを取り出して、近づいてくる。途中にある棚を漁って手のひらサイズの瓶を片手に、目の前でしゃがみ込む。そっと触れた手はやはり兄同様ひんやりとしていた。 「風邪ひくことが多いわね……さあさ、これ飲んでお休み」  渡されたコップの水と、小さな丸い薬を口に含んで一気に飲み込む。口の中にほんのり苦味が広がった。  ふと、母の顔を見上げる。優しい瞳は、僕とも兄とも違う茶色。顔立ちも全然違って……でも優しい。僕の知っている母は、もっと冷たくて、無関心な人だった。だから時々よくわからなくなる。 「――おかあ、さん」  何も言うつもりではなかったけど、無意識に口から飛び出た単語。ふっと周りの空気が温かいものになった。  パッと顔を上げれば、そこには優しく微笑む顔があって、記憶の中の母の像を上書きするように刷り込まれていった。  だが、その母の後ろに見えた太陽の顔は、一層曇ったように見えた。まるで対極な二人の表情に複雑な気持ちになって、つい俯く。  気付いた母が振り返るが、瞬間目を逸らした太陽。少し困ったようにため息を吐くと、僕を抱き上げた。小学校高学年ともなれば、それなりに体重も増えて重いだろう僕を、しっかり持ち上げてくれる母の強さが苦しい。  太陽のじっとりとした目が、母の腕に抱かれた僕にやられる。瞳の奥に揺らぐ感情の色がごちゃごちゃしていて、見ていられなかった。 「瑞月くん、部屋戻ろうね」  柔らかくて優しい手の平が頭に触れて、少しずつ眠気に襲われる。  待って、待って。まだ僕、寝たくない――。
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