焼き鳥屋にて

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「ほら、飲めよ」 「うーん」  羨ましいと思っていた女と同じように、青木にしなだれかかっている。思っていたよりも、がっしりとした青木の腕が後ろに倒れそうになった友里を支えた。 「大丈夫か?」 「うん、大丈夫よ。本当に帰っていいよ」  戻ってきてくれて嬉しかった。それを素直に言えるほど若くはない。しっかりとしたふうを装って言っては見るものの、歩ける状態ではないことは自分でも分かっていた。 「俺が帰ったら連れ去られるぞ」 「誰に?」 「ヤリモク男に」  友里は吹き出した。二十代の女の子じゃあるまいし、酔いつぶれたアラフォー女を連れ去る男なんているわけがない。 「笑ってるけどな、マジだぞ。美人がこんなところに座り込んでたら、持ち帰ってくださいって言ってるようなもんだろ?」 「いないわよ、そんな物好き」  青木の胸元からかすかにタバコの匂いがした。吸ってはいなかったから、他の客の匂いがついたのかもしれない。 「ここにいるって言ったら?」  車の音や雑踏の音。賑やかだった音が、まるで二人の周りにだけ薄いオーガンジーの布をかけられたかのように小さくなった。  からかわないで、そう言おうと顔を上げると伏し目がちに友里を見る青木と目が合った。まつげが長い。あごを上げれば唇が触れるような距離に、鼓動が早まり頭がクラクラした。
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