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「……ひげ」
「えっ?」
「ひげが伸びてる」
少し開いた青木の唇の上にひげが生えていた。指を伸ばしてあごに触れるとチクチクする。
「青木くんて、ひげが濃いのね」
宏樹は常に生やしっぱなしだった。
『自然の中で自然のエネルギーに触れると、飾り立てることが、ばからしくなってくるんだよ』
ベッドの中で宏樹のひげに触れた。今の青木のようにチクチクしていなくて、もっと柔らかかった。
『本当は、毎日剃るのが面倒くさいだけだけどな』
宏樹は八重歯を見せて笑うと、友里にキスを落とした。
何年前の記憶だろう。幸せだった、若いころの記憶だ。
友里は青木から顔をそむけると、足元に置かれたお茶のペットボトルを手にした。酒を飲むとのどが渇く。半分くらい一気に飲んで、フタを閉めた。
「はい、冗談はおしまい。お茶ありがとう、だいぶ落ち着いたからタクシーで帰れそう」
立ち上がろうとして尻もちをついた。思っているよりも酔いは足にきているようだ。急に立ち上がろうとしたからか、さらに酔いがまわったような気がする。
「フラフラじゃねぇか、飲み過ぎなんだよ」
せっかく抜け出たのに、青木の腕にまた囚われる。
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