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桜のことももう大丈夫だ。この家で幸せに暮らす桜の姿が、友里には想像できた。
「どうしたの、ニヤニヤして」
青木の方を見上げると、青木もニヤニヤしていた。
「たぶん、青木くんと同じこと考えてる」
きっと青木も、桜も梅乃ももう大丈夫だと、そう思っているのだろう。同じことを考えているのが嬉しくて、友里は青木に笑いかけた。
青木は照れたように小鼻をかくと、花江から靴べらを受け取った。
「ところで、あなたたちはどうなの、結婚。まだなの?」
花江の、恐るべき不意討ちだった。
決して嫌味で言っているのではないことは、花江の顔を見れば一目瞭然だった。
前向きに考えてますなんて、言えればいいのに。友里はそう思いながらも、少し笑って顔の前で手を振った。
怖くて、青木の顔を見ることはできなかった。
「はい! プロポーズしようと思っています」
鏑木家の玄関に、青木の声が響いた。
土間を照らす灯りは、白熱灯だった。薄暗いから照明を変えたいと梅乃が言っていたが、友里はレトロなこの雰囲気が好きだった。
前向きどころじゃない。降ってわいたようなプロポーズに、友里の心臓は痛いくらいに大きく動いた。
青木のことばが、頭の中で何度もリフレインする。
もともと、人に自慢できるような関係ではなかった。最初、梅乃の代わりだと思っていた。それでもよかった。そばにいれれば、いいと思った。
いつからか青木に惹かれ、梅乃の代わりではいやだと思った。愛されたいと願うようになっていた。
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