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友里はゆっくりと目を開けると、滑らかな肌に頬を寄せた。
この温もりの中で目を覚ますのは、もう何度目になるだろう。
ここは、友里だけの安寧の場所だ。
「おはよう」
青木の唇が額に触れた。微かなリップ音を立てて、友里の唇に下りてきた。
昨夜愛された熱が、体の奥で再び燃え上がる。青木の柔らかな唇が首筋に触れ、友里の口から甘い吐息がこぼれた。
不意に、昨夜、ホテルのスタッフと交わした会話が蘇った。
今日の朝食は、アジの開きとホテル自家製の塩辛が出るらしい。友里は塩辛が大好物だった。
思い出したせいで、空腹感が急に友里を襲った。
青木の長い指が胸に触れたが、甘美な快楽よりも、食欲が勝った。
正直な友里の胃袋が、大きな音を立てて存在感を発揮した。
「……ごめん」
体を起こした青木に、ごまかすこともできずに友里は詫びた。
顔を見合わせると、同時に吹き出した。
「塩辛、思い出しただろ」
「うん、アジの開きも」
一頻り笑った後、友里も体を起こした。
「続きは朝ごはんの後だな」
浴衣に着替えた友里の肩に、青木が紺色の半纏を掛けた。
「いい天気だ」
「うわぁ、きれい」
海を見つめる友里に青木がキスをした。軽く触れ、すぐに離れた。
「朝飯、行こうか」
返事の代わりに、友里はキスをした。
窓の向こうには、どこまでも果てしなく続く太平洋と雲一つない青空が広がっていた。
きっとこの先も二人で歩んでいける。二人ならどんな道でも進んでいける。
まっさらな景色に自分と青木を重ねた。
深くなるキスは、言葉以上に友里の中を幸福感で満たした。
了
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