焼き鳥屋にて

2/18

2320人が本棚に入れています
本棚に追加
/189ページ
 目の前の七輪で、ホルモンが熱を加えられくるんと丸まっていく。したたり落ちる油が炭の上に落ちるたび、おいしそうな音を立てて煙が上がる。 「あ、これなんかもういいよ。ほら」  向かいに座る青木義人が、トングで焼けたホルモンを掴み差し出した。 「ホルモンって一概に言ってもいろいろあるんだよ。牛、豚、鶏。その中でも大腸、小腸、広い意味で言えば内臓全般を指すからね」 「ふーん」  小さなコロコロしたホルモンを箸でつまむと、林友里は口に入れた。初めての味だ。噛むたびに脂とうまみがあふれ出す。友里の顔がほころぶのを見て、青木が目を細めた。  笑うと細くなるその目が友里はわりと好きだった。 「うまいだろ? これは豚の大腸なんだけど、新鮮だからジューシーですげぇうまいんだよ。それに、何よりビールに合う!」  ジョッキを持ち上げて、青木がビールをおいしそうに飲む。首のボタンを外したワイシャツの襟元からのぞくがっしりとした首、上下する喉仏を見るといつも胸がドキドキする。  今夜も友里の部屋に来るのだろうか。一応、部屋は整えてきた。シーツも取り替えてきた。風呂も洗ってきた。  それは、女性として当然の行いだと友里は自分に言い聞かせた。  恋人ではないけれど、友達よりは近い。だからといって、全てを割り切ったセフレでもない。この微妙な関係を続けるために、自分の身の回りを整えることは必要なのだ。  それに、青木との関係を継続するために自分を磨くことは嫌ではなかった。  デートの前の晩はパックをする。ゆっくりと外して、肌の調子が上がっていると気分も上がる。  そもそも、なぜ不毛ではないが不毛とも言えるこんな関係に陥ったのか。  話は一か月ほど前にさかのぼる。
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2320人が本棚に入れています
本棚に追加