焼き鳥屋にて

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 鏑木梅乃とは、もう十年以上の仲になる。新卒入社の梅乃と中途採用の友里は、同い年ということもあり話すことが多かった。  なんでも一人で抱え込むくせに感情表現豊かな梅乃と、同じく一人で抱え込みやすく人の感情に敏感で世話好きな友里は、すぐに打ち解けた。  二月の初め。梅乃の様子がおかしいことはすぐに分かった。部下の富樫康大と、受注ミスのカバーのため広島に行ったところから、妙にしおらしく落ち着かない。  ピンときた友里は二人の行きつけの『まるや』に、梅乃を誘った。予想通り梅乃は富樫に惹かれていた。今まで何度なく、乗り気じゃない梅乃を合コンに連れ出した。いい雰囲気の人ができても、梅乃はすぐにブレーキをかけてうやむやにしてきた。「恋愛はいらないかな」それが梅乃の口癖だった。  その梅乃が、十歳も年下の部下に翻弄されている。富樫は、営業部のエースなだけあって、駆け引きもうまく押しも程よく強い。  友里が梅乃の背中を押してやれば、二人は順調に交際をスタートさせるだろうと友里は考えた。  一つ問題があるとすれば、青木だ。  青木義人は梅乃の高校の同級生だ。この間あった同窓会で、十年ぶりかで再会したらしい。話を聞く限り、どうもこの青木は梅乃のことが好きなようだ。しかも、わりと家も近所らしい。  富樫以上に押しが強くて、意地悪なのに優しいという萌えポイントをちゃんと押さえている、女にモテそうな印象だった。  もし青木が本気で梅乃にアタックしたら、情に絆され梅乃はなし崩し的に青木に傾くかもしれない。それでなくても、常に平等をモットーにする梅乃のことだ、ひどく悩むだろう。梅乃が苦悩する様を想像し、富樫の悲しそうな顔を思い出して、友里は心を固めた。  青木が梅乃にアタックすることをなんとか阻止しよう。  なんでこんなに富樫に肩入れするのか。それは、友里の年の離れた弟たちとかぶるからだった。
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