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ことはすべて作戦通りに進んだ。
梅乃の家は祖父と祖母との三人暮らしで、そのとき祖母は入院していた。祖父から電話があって帰らなくてはいけないと、友里は適当な嘘を青木についた。
のっぴきならない理由にもかかわらず怒り出すような男なら、情も何も梅乃には残らないだろう。
突然のできごとに戸惑った様子ではあったが、意外なことに、青木の対応はスマートであった。自分と二人では嫌ではないかと友里に確認したのだ。柔らかで優しい笑顔つきだ。
わりといいヤツなんじゃないか。友里の良心が痛んだが、痛みを飲み込んで、二人が帰ったあと、友里は青木の向かいに座り直した。
ちょうど運ばれてきた生ビールを手にして顔を上げると、スマートな営業マンの仮面は外れ、ふてくされたような顔の青木が目の前にいた。友里は笑うと、ビールジョッキを持ち上げた。
「せっかくだから乾杯しようよ。青木くん」
何か言いたげな目で友里を見て、ため息をつくと青木はジョッキを重ねた。
「あー、労働のあとのビールはおいしい!」
「……さっきのあれ、嘘だろ」
皿に残っていたねぎまをつまんで口にする友里を青木は睨んだ。
「なんの話かしら」
「梅乃のじいちゃんから電話があったの、嘘だろ」
なかなか鋭い男だ。油断しないようにしないと。友里は大人の顔でふふふと笑うと、ジョッキを口にした。
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