第二章 偏見。そして、事件。

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「先生のおかげで、志望校がB判定になった、と大翔さんが喜んでおられました」 「いえ、彼がよく頑張ってるからです」  車の中で話すことは、全く健全な内容だ。  色事を匂わせるような征生ではなかった。 (こうやって、気兼ねなく話せるのは難波さんだけになっちゃった)  今頃サークルの友人たちは、新歓コンパで盛り上がっているだろう。  今では当たり前のように誘いの来なくなってしまった、楓。 (もう、サークルも辞めようかな) 「どうかなさいましたか?」 「え?」 「いえ、先生のお元気が無いようですので」 「そんなこと、ないですよ! あ、ちょっとコンビニで止めてください」  楓は、車中に征生を残し、一人でコンビニへ立ち寄った。  すぐにトイレに駆け込み、涙を拭う。 「あんまり、優しくしないで欲しいな。泣いちゃうじゃん」  水で目を冷やし、楓は一応コンビニ内で飲み物や菓子を買った。  何も買わずに車に戻ると、征生に怪しまれると思ったからだ。  しかし、レジを済ませて外に出ると、くぐもった悲鳴が聞こえた気がした。
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