第二章 偏見。そして、事件。

7/10
前へ
/64ページ
次へ
「探せ!」 「どこだぁ!」 「出て来い!」  一番奥の、倉庫の陰に身を寄せ合い、楓と征生は息を殺して潜んでいた。  ざりざりと、乱暴に地面を走る音が聞こえる。  楓は震えながら、征生にぴったりとくっついて離れなかった。  結んだ手を、離さなかった。  やがて、やや遠くから男の声がした。 「おい、山崎がヤバいぞ。頭から血ぃ出てる」  その声に、楓を探し回っていた男たちの注意は逸れた。 「病院、連れてくか?」 「やべぇ、って。どれくらいヤバいんだよ」  次第に複数の足音と声は遠ざかって行く。  楓がホッと息をついたその時、怒号が響いた。 「絶対探し出してやっからなぁ! 覚悟しとけよ!」  きゅっ、と再び竦んだ楓を、征生の長い腕が包んだ。 (あ……)  気が付くと、その体は征生にすっぽりと覆われてしまっている。  息が触れ合うほどに近い、その距離。  思わず赤くなる、楓だった。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

357人が本棚に入れています
本棚に追加