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刺身をビールで流し込みながら、楓はずっと考えていた。
(今日こそ、言うんだ。大翔くんの家庭教師を、もう辞めたいって)
まもなく大翔は3年生になる。
大学入試を控えて、学習はぐんと濃密になる。
そして、それを見る家庭教師の責任も、重くなる。
もし、不合格だとどうなるか。
(縛られて、海に沈められるかも……)
そんな恐れを、楓は常に抱いていた。
元はと言えば、ヤクザの息子の家庭教師を引き受けた自分に非はあるのだが。
(あの時は、難波さんが土下座して頼んだんだっけ)
家庭教師募集に誘われて、やって来たのは極道の屋敷。
大慌てでお断りし、失礼して帰ろうとした楓を止めたのは、征生の言葉だった。
『大翔さんがヤクザの息子と言うだけで、他の人間もみんな断って行きました。もう頼れるのは、先生しかおりません。どうか、どうかお願いします!』
そこまで言うなら、1年だけ。
そんな気持ちで引き受けた、家庭教師。
もうすぐ、その1年目がやってくる。
「あの……」
意を決して、楓は組長に話しかけた。
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