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「やぁやぁ、先生。お呼びたてして申し訳ない」
まだアルコールが抜けきっていないのか、組長は陽気だった。
大事な話を忘れていた、と彼は言う。
「先生のおかげで、大翔は合格できました。そこで、先生の欲しいもの何でも差し上げます。どうぞ、遠慮なさらずにおっしゃってください!」
「いえ、僕はこれ以上は、もう何も」
「そうおっしゃらずに!」
征生は、楓に耳打ちした。
(楓、組長の面子を潰してくれるな)
は、と楓は思い出した。
以前、征生が語った言葉を。
『ヤクザは、面子を潰されることを嫌います』
そうか。
それだけ組長さんは、僕に恩義を感じてくれてるんだ。
だったら……。
「では、欲しいものをひとつだけ」
「何でもどうぞ!」
「……難波さんを、征生さんを、僕にください!」
絶句したのは組長より征生の方だった。
(楓! 何てことを!)
楓はこぶしを握り締め、祈るような眼で組長を見ていた。
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