ベリィーボーイ

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 何となく口周りが寂しくなったが、生憎煙草は切らしたままで、今は買いに立つ気力も湧いてこなかった。ふと、昨日の夕刻にこの町のビーチで売り子の少年から買い求めた蒸し落花生が残っているのを思い出し、僕はカメラバッグの中をまさぐり、新聞紙で作られた掌大の紙袋を掴み出した。まだ半分位はあるので、腹の足しになると思ったが、一粒を手にとり殻を割ったとたん、饐えた臭気が鼻を突き、一緒に割れた中の実が納豆と同じような糸を引いた。完全にヤラれているのだ。この茹だる暑さでは無理もないことだが、どの実を取っても情況は変わらないと思い、僕はベンチに座ったままの体勢で、それを袋ごと、五メートルほど離れた場所にあったゴミ箱へ投げ入れた。我ながらナイスコントロールだったが、その中身はゴミ箱の底で飛散した。だかその後すぐ、僕は自身の今とった行動に若干の誤りがあったことを悟った。先程から付近を徘徊していた三十代位の酔っ払い風の男が、その行動に対して、らしくない機敏な反応を見せ、ゴミ箱をしげしげと覗き込んでから、千鳥足で僕が座るベンチの前にやって来て、しつこく難癖をつけ始めた。
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