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ベリィーボーイ
午後の強い日差しの下、僕は橋のたもとにある中途半端な木陰のベンチに独りで腰を下ろしていた。橋の上を通っているのは、この国の二大都市ハノイとホーチミンを結ぶ国道一号線で、時折、冷却用の水の詰まったドラム缶を屋根に載せたオンボロの長距離バスが砂埃をまき上げながら、けたたましく駆け抜けて行った。
この町の名称はファンティエットと言い、ホーチミンから向かう場合、一号線が初めて海にぶつかるのが、この小さな港町になる。アジアを代表する調味料である魚醤ヌックマムの生産地として世に知られているようだが、昨日この町に入ってから、それらしい風景には、まだお目にかかれていなかった。しかし、そもそも僕がここへやって来た理由はたった一つしかなかったので、特にその他のことに執着するつもりはなかった。
僕が追い求めていたのは、通称『お椀舟』と呼ばれている、竹ザルをそのまま人が乗れる寸法まで巨大化させたシンプル過ぎる舟で、ここファンティエットの港町がその文化の中心地であるという話しだった。
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