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それを実感した途端、不意に何の脈絡もなく、広い海原のどこかでミンク鯨が波間から跳ね上がる映像が頭に思い浮かび、同時に僕の中にある想いの核が音も無く、繋がった空に向け弾け散った。
その欠片たちの行方を追うように僕はその場に佇んだまま視線を沖の方角へ走らせた。
有り得ない妄想だということは解っていた。しかし、僕はそうせずにはいられなかった。それはきっと、僕の中で一つの季節が終わったことを告げるシグナルのようなものだったのだろう。
いつの間にか涙は止まり、それを肌で確かめた後、感謝と鎮魂に彩られた想いの欠片たちが、愛する大切な人々の元に無事届くことを祈りながら、僕は再び風の中をハナと共に番屋を目指して歩き始めた。
あの場所にたどり着く前に、頬の涙は乾くだろうか・・・。
海峡の向こうに横たわる国後だけが、総べての心の有り様を理解しているように、いつもと変わらぬ泰然とした面持ちで、浜を行く僕の姿をずっと見守り続けていた。
二〇〇三年 七月 知床
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