ミンク鯨の背骨

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 朝、引き潮とともに波は次第に収まりを見せた。しかし、浜は散々たる状況だった。残った舟は波にあおられて横転。漁具のあるものは砂利の下敷きになり、あるものは山側の茂みの中まで飛ばされている。きっと、波にさらわれたものもあるに違いなかった。幸い、行方の判らなかった小舟は数百メートル下手のフジモトの婆の番屋の前浜に打ち揚げられているのが確認できた。運のいい舟だ。しかし、これらの後片付けだけでも、たっぷり一日仕事になるだろうと思った。  そして、それにも増して厄介なのが、浜に散らばる大量のゴミだった。日頃なら一面に干した昆布が整然と並ぶ広い浜のまん中に、海岸線とほぼ平行に、真っ直ぐ『ゴミのベルト』なるものが走っている。そこまで波が達したという証のようなものだ。引きちぎられた海藻の屑に混じって、錆びた空き缶、ペットボトル、網の残骸に異国の日用品、動物や魚の骨など、数えあげればそれこそきりがない。聖域と言われる知床の海でさえ、ここまで汚れているのだ。
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