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さっそく番屋に持ち帰って爺に尋ねてみると、
「ミンクの背骨だな」
と、一言。
もちろん、それは毛皮でおなじみのイタチの仲間ではなく、鯨のミンクであることはすぐに理解できた。強引な断言に多少の不安は残るが、五十年以上のキャリアを持つ漁師の言葉を信じないわけにはいかなかった。それに何より『ミンク鯨の背骨』という語感がいい。人の心をくすぐる響きがある。この時より、その骨は僕の中で『ミンク鯨の骨』になった。学術的なことはこの際どうでもよかった。
実際、根室海峡にミンク鯨は存在する。
二年前の夏、僕は爺と二人で赤岩から羅臼の街へ昆布を運んだ帰りの海でミンク鯨の群れに遭遇したことがあった。五、六匹の群れで体長も六~七メートルくらいあっただろうか。
舟が静かに近づいていくと、彼らは、僕たちの目の前で悠然と動じることなく、小さく潮を吹き、尾ビレを蹴立て、大きな渦を残して深い海の底へと姿を消していった。
僕はその渦が消えてなくなるまで、じっと海面だけを見つめていた。不思議な静寂が辺りの海を覆っていた。音のない世界が永遠に続くかのように・・・。
「ミンクだ・・・」
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