ミンク鯨の背骨

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ミンク鯨の背骨 ~プロローグ~   大きな時化だった。  昨夜の満潮時、波は普段越えることのない土手をいとも簡単に乗り越え、浜の大半を洗った。番屋の老夫婦もこの時期に赤岩で、これほどの波は記憶にないという。  前日から波が高くなる兆候がないわけではなかった。そのため浜にある漁具を土手の高い位置に上げ、舟も丘側に巻けるだけ巻き上げておいた。しかし、本州方面から流れてきた台風崩れの低気圧が運悪く千島列島に停滞し、台風なみの高波を誘ったのだ。  夜半、浜の異変に気付いた時には、すでに波は土手を越えていて、二艘ある舟のうち小舟の姿はなく、僕は爺と二人で波の合間をぬって舟巻きの機械のみを退避させるのが精一杯だった。後はただ、暗闇の海から絶えまなく打ち寄せる波を呆然と眺めるしか手立てがなかった。  
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