後日談71

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後日談71

 村の書庫へとやってきたミャーコと村長。すると、ミャーコが昨日見つけた場所の壁は元通りになっていた。 (あれ? あそこに大穴が開いてたはずなんだけどな……)  ミャーコは首を傾げている。 「どうしたんじゃ、ミャーコ」  異変に気が付いた村長が声を掛けてくる。この声にミャーコはくるりと振り返る。 「いえ、昨日、この辺りの壁が崩れて奥へ進めたんですけど、その壁が不思議な事に元通りになってるんですよ」  不思議に思って触れてみるミャーコだが、確かにそこには間違いなく壁があった。押してみるとちゃんと壁の感触がするのである。これにはミャーコは頭に疑問符を大量に浮かべてしまう始末であった。 「ふむ、考えられるのは二つじゃな。ミャーコが夢を見てたのか、ミャーコだけしか見る事ができないか、このどちらかじゃな」  村長はものすごく冷静だった。  これにはミャーコは後者一択だった。実際昨日、壁の奥に入って本を読んだのだから。その時見た内容だってはっきり覚えている。崩れて倒れた時には痛みもしっかり感じたし、夢だとは到底思えなかった。 「うーん、村長に実物を見せたかったんですけれど、仕方ないですね」  ミャーコは残念そうにしょげしょげと耳と尻尾を垂れさせていた。 「ほっほっほっ、それではワシは戻るとしますよ。また何か分かったら教えてもらうとしよう」  村長はそう言いながら書庫を立ち去っていった。村長だって暇ではないから仕方がない。 「はあ、仕方ない。とはいっても、ここにあるのはほぼ全部読んじゃったからなぁ……」  ミャーコは書庫の中を見回しながら、元気なく呟いている。  書庫の中で一人になったミャーコは、昨日崩れたはずの壁に手をそっと当てる。そして、ため息を吐きながら額を当てようとしたその時だった。 「うわあっ?!」  突如として壁が消えて、ミャーコは前に倒れてしまいそうになる。だが、そこはさすがは猫の獣人。崩れたバランスを必死に立て直して、こける事を回避したのである。 「あー、びっくりした……。急に消えないでちょうだいよ、まったく」  ミャーコはバクバクする胸を押さえながら、目の前の消えた壁に文句を言っていた。  深呼吸して少し落ち着いたミャーコは、消えた壁について考えてみた。自分一人の時に壁に触れると壁が消えるけど、誰かが居ると消えない。もしかしたら、この部屋は神託の巫女にしか見つける事ができないのではないか。そういう結論に達したのだった。  これならば、村長が居る間は塞がっていて、ミャーコだけになった途端に入れるようになった事に納得ができる。ただ、自分一人だけではその考えがどこまで正しいかは分からなかった。  検証しようとしても、チアベルかスフレでも連れてこないといけないわけだし、到底無理だから仕方のない話だった。  そんなわけで、ミャーコは昨日同様に本を読む事にしたのだった。  ひとまずお昼を迎える。  この日は珍しくお腹が鳴ってくれたので、ミャーコはそこで手を止める事が出来たのだ。 「ずっと本を読んでたから、午後はちょっと気分転換をしましょうかね」  ミャーコはそう言って、書庫を出ていく。 「それじゃ、また明日読みに来るわね」  この時のミャーコは、どういうわけか本に話し掛けてしまっていた。どうしてそうしたのかは分からないが、ミャーコは声を掛けてしまったのである。  当のミャーコはそんな事に疑問も持たず、昼食を食べに自分の家へと戻っていったのだった。 (うん、さすが隠されていた部屋とあって、ずいぶん興味深い情報が出てくるわね。スフレが言っていた通り、獣人は元々は破滅の巫女によって動物が変化させられたものだった事も載ってたし)  ミャーコは新しい情報を見つけられてとてもご機嫌なようだった。  それにしても、ミャーコはいつまで村に里帰りをするのだろうか。新しい書庫を見つけた事で、まったく見通しが立たなくなっていたのだった。
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