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後日談58
ノーセンの街を見て回るアインズたち。街はやっぱり獣人たちが多く、人間たちと仲良く暮らしているのが印象的だった。
ミャーコとスフレはどういうわけか毛玉を購入していた。故郷の獣人の村へと遠いというのが一番の理由である。
「この毛玉、固めた後に熱湯で消毒するんですよ。放っておくと虫が湧いてくきますからね。熱湯で消毒した後は風通しのいい場所で乾かすと、一年間は遊べるんです。だから、冬ごもりの前に作って、次の年に暖炉の燃料にしてるんですよ」
ミャーコは毛玉をもふりながら、毛玉について説明していた。
前世ではカツオブシムシという虫が湧くために、あまり集めても保存ができなかったのだ。この世界にはカツオブシムシは居ないようなのだが、毛玉の中は暖かいのでそれなりに虫を引き寄せてしまうようなのだ。なので、冬ごもりをするタイミングで焼いてしまうというわけなのである。
「まあ、たとえ虫が湧いても、スフレの破壊の力で粉々にできますから、今ならもっと長い間、遊び道具にできると思いますよ」
ミャーコは毛玉をまじまじと見ながらそんな事を言っていた。
「ミャーコちゃん、どのくらいのタイミングでかけてみたらいい?」
「遊ぶ度にっていうのが理想かな。スフレの体調を考えるともうちょっと長い間隔でも大丈夫だと思うわよ。どのみち毛玉が割れたら燃料行きだけどね」
「そっかー」
ミャーコとスフレはほのぼのと話をしている。
一方でアインズは従者と何かを話し合っていた。おそらく視察で気になった事について対応策を話しているのだろう。実にその表情は真剣そのものだった。
ミャーコとスフレは特に何も感じなかったあたり、アインズにはアインズなりの気になる点があったのだろう。ミャーコは代理として能力を発揮しているが、やはりアインズとはどこか視点が違うという事なのである。まあ、ミャーコはスフレファーストなところがあるので、今回はそれが発動していたのかも知れない。
「アインズ様はどのような点が気になられたのですか?」
アインズたちの話が気になったミャーコは、あえてアインズに問い掛けてみる。
「ああ、やっぱりこの街の獣人の多さだな。王都では専用の区画に押し込められていたので、あまり見る事がなかったからな」
「ああ、確かに……」
そうだった。王都では獣人だけが暮らす獣人区と呼ばれる区画があり、獣人はほとんどそこに押し込められていた。それ以外の区画に出た獣人は確かに居たのだが、その数はかなり限られていたし、どこでも見たというわけではない。
ところが、このノーセンの街は街中を歩くだけで獣人に遭遇するのである。この光景が今さらながらにアインズには新鮮だったようだった。ミャーコにはそのアインズの反応の方が新鮮だった。
結局のところ、この日の視察部分では、特に問題なしだったようである。ベアズ男爵がそれだけ街の運営をきちんと行えているという証拠だろう。不満を訴えてくるような住民が居なかったのだから、ほぼ間違いない評価となるそうだった。
さすがに安心できそうなノーセンの街に、アインズはひとまずほっとひと安心といったところだろう。だが、明日、明後日は周辺地域にまで視察の範囲が広がるので、総合的な評価はそれが終わってからという事になるだろう。
とりあえずはひと通り街の中を見終えて、ベアズ男爵の屋敷へと戻る事になった。辺りは夕焼けに染まり始めていたので、丸一日費やしていたようだった。
「いや、なかなかいい運営をしてもらっていて、領主として感謝するよ、ベアズ男爵」
「アインズ様にお褒め頂けるとは、光栄の極みでございます。このベアズ、この街のためにますます尽力させて頂きましょうぞ」
アインズに褒められたベアズ男爵は、跪いてアインズへと誓いを立てていたのだった。
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