115人が本棚に入れています
本棚に追加
後日談59
ノーセンの街を見て回ったアインズたちだったが、これといった問題点は見つからなかった。水に関しても南部と違って問題点は見つからなかった。これならしばらくは大丈夫そうである。
「ふむ、問題はなさそうだな。これからもよろしく頼むぞ、ベアズ男爵」
「はい、お任せ下さい」
街の入口で言葉を交わすアインズとベアズ男爵である。
その頃、ミャーコとスフレは馬車の横で待機しながら、街の獣人の子どもたちに絡まれていた。
「ねえねえ、お姉ちゃんたち、もう帰っちゃうの?」
「ええ、そうね。領地の視察の最中だから、次に行かなきゃいけないのよ」
ミャーコは獣人の子たちに優しく対応している。
「えーやだー」
だだをこねる子どもたち。だけども、ミャーコもスフレも嫌な顔をしない。
「ごめんね。遊んであげたいけれど、私たちはお仕事が忙しいの」
スフレは子どもたちの頭を撫でながら、本当に残念そうな顔をしていた。前世では親の愛情を知らなかったスフレだが、今世ではみんなからの愛情たっぷりに育ってきた。その上、双子の母親になった事もあってか、本当に優しさあふれる顔をしている。
「その通りだ。あまりスフレ様たちを困らせてはいけませんよ」
「はーい……」
ベアズ男爵に言われると、だだをこねていた子どもたちはおとなしくしゅんとしてしまった。耳と尻尾も力なく垂れてしまうあたりがまた可愛いものである。
「僕たちも、ミャーコ様みたいにえらい職に就けたりするのかなぁ」
「どうでしょうかね、君たちの頑張り次第だと思いますよ。少なくとも、このドッグワイズ領では獣人も同等に扱われますからね」
「そっかあ。だったら、僕頑張ってみる」
ミャーコに言われて、むんと気合いを入れている犬の獣人の男の子。これまた可愛いものである。
「そうね。頑張る事が重要よ。いずれはドッグワイズ領だけじゃなくて、王国のどこでも働けるようにお姉ちゃんたちが頑張るからね」
「うん、約束ーっ!」
「ええ、約束です」
ミャーコとスフレが約束すると、男の子はニカッと笑って女の子を連れて走り去っていった。
「さて、それでは私たちは次の目的地に向かうからな。ノーセンを頼んだぞ、ベアズ男爵」
「ははっ、お気を付けて行ってらっしゃいませ、アインズ様」
挨拶を交わすと、アインズたちは馬車に乗り込み、最後の目的地となる領都へと向かった。領都の視察が終われば、今回の視察旅行は完了となる。
そのドッグワイズ領の領都だが、実はミャーコたちは何度となく立ち寄った事がある。それというのも王都と結ぶ街道上に存在しているからだ。そのため、王都と獣人の村を往復するにあたっては、どうしても立ち寄らざるを得ない場所となっていたのである。ちなみに、領主邸があるのも離れているとはいえこの領都なのだが、結婚辺りからバタバタしていたために、ようやく今回まともな視察が行える事となったのである。
「この領地を賜ってからというもの、ゆっくりと領都を見るというのは初めてだからな。歓迎されるといいのだけどな」
「大丈夫ですよ、アインズ様なら」
不安を口にするアインズだが、根拠がないようにも思えるスフレの言葉にちょっと安心していたようだった。
「まあ、そうだといいのだがな」
ふっと笑い、馬車の外を眺めるアインズ。やはりどこか不安があるのだろう。
「大丈夫ですよ、アインズ様。優秀な代理がここに居るのですから、抜かりはありませんって」
ミャーコがドンと胸を叩いてドヤ顔を決める。
「ははっ、ミャーコくんは相変わらずよく分からない自信を見せてくれるね」
「楽観主義というわけではないですけど、一度死んだ身なせいか、不思議と気持ちが前向きになるんですよね。アインズ様が大変な間は、代理として仕事をさせて頂きましたから」
ほとんど屋敷に居たはずなのに、そんな暇がいつあったのだろうか。そう思うアインズだったが、そこはあえて突っ込まなかった。
「そうか、すまなかったなミャーコ」
「代理ですから、当然です!」
感謝するアインズに対して、胸を張って答えるミャーコである。
その姿に、しばらく馬車の中には笑いが起きていたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!