後日談61

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後日談61

 領都の視察は思ったより早く終わってしまった。街でのミャーコの評判が思ったよりいいので、アインズはそれに驚いていた。その様子にはスフレもかなり満足していたようである。 「驚いたな。ずいぶんと人気があるようじゃないか、ミャーコ」  アインズは素直に感心している。 「それにしても、いつの間にこんな人気を得たんだい? ほとんど屋敷に居た記憶しかないんだけどな」 「ふっふっふっ、獣人を甘く見てもらっては困りますよ」  アインズの質問に、ミャーコは不敵な笑みを浮かべながら答えている。  まあ、ミャーコが出向いていなかったとしても、ミャーコはアインズの代わりにいろいろと領地の要望を聞いて捌いてきていた。そういう事情もあるので、ミャーコの名前はそこそこ領地に浸透しているのである。さすがに領主と思っている人物こそ居ないが、有能な補佐と見ている人物はそこそこ居るようである。  しかし、いつまでも領都に居るわけにもいかず、アインズたちはいよいよ領主邸に帰還する事となった。詳しい話は屋敷に戻ってからだ。そんなわけで、長かった視察の旅を終えて、アインズたちは領主邸に戻ったのだった。 「お帰りなさいませ、旦那様」  領主邸に戻ると使用人たちが総出で出迎えていた。 「みんな、私が不在の間、実にご苦労だったな。何か変わった事はなかったか?」 「いいえ、特にございません」  家令が代表してアインズの質問に答える。 「タマ、テイル。子どもたちの様子はどうだ?」 「はい、問題ございません。ミルクをよく飲まれますし、よく眠ってもおられます。ここまで手の掛かる事のない赤ん坊は初めてだと、乳母の方は驚いてらっしゃいます」  どうやらペルロとシアンは無事にすくすくと育っているようだった。ここまでおとなしいのは、おそらくスフレの影響だろう。子どもの頃はおとなしかったという証言が、スフレの両親からなされているのだ。なので、それがしっかり子どもたちにも引き継がれているという事なのだろう。 「そうか。手の掛からないのはいいのだが、育ってから手が掛かるのも考えようだからな。しっかり見ておかなければならないな」  アインズは笑顔で笑いながらそんな事を言っていた。だけど、その裏にはスフレが破滅の巫女として覚醒したあの件が、苦い経験として残っている。だから、アインズはそんな事を言ったのだろう。  ちなみにこれはミャーコも同じである。だからこそ、その時のアインズの表情を見て素直に笑えなかったのだ。 「とりあえず、すぐに視察の結果をまとめる。ペンと紙をしっかり用意しておいてくれ」 「畏まりました」  アインズは家令にそう命ずると、自室へ急ぎ足で向かっていった。 「スフレ、私が部屋まで連れていくわよ。タマとテイルもいらっしゃい」 「畏まりました」  アインズを見送ったミャーコは、スフレたちと一緒にスフレの自室へと向かう。それにしても、タマとテイルもすっかりメイド服がに合うようになっていた。そもそもはそういう目的で雇用したんだけど、学園を卒業してからもミャーコたちについてきたあたり、ミャーコたちを慕っているのである。だからこそ、この視察の間のスフレ周りの事は二人に任せておいたのだ。そして、その期待に見事に応える二人。ミャーコたちの側には欠かせない人物となっていたのである。 (うーん、これだけ頑張ってくれてるし、私たちより年上だからそろそろ結婚も考えさせたげないとね……)  見事な働きの二人を見ながら、ミャーコはそんな事を考えていた。  何にしても、無事に今回の視察旅行は終わったのである。  あらかたの問題点は現場で話し合いをして解決をしておいたが、まとめながら改めて講じる施策を話し合う事になる。  現状では南の方面が少々問題を抱えているようだったが、はたしてアインズはどういった判断を下すのやら。  ミャーコもその会議に参加すべく、スフレと別れてアインズの部屋へと向かったのだった。
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