後日談62

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後日談62

 やはり南部地域の懸案は、獣人に対する偏見だろう。ミャーコとスフレに対してもかなりきつい視線を送っていた。一方で北部の方は寛容だった。同じドッグワイズ領内で、さらには距離もそう遠くないというのに、これだけの温度差があるのである。これは本当に一筋縄ではいきそうにない状況だったのだ。ただ、この状況は早急に解決すべき事項ではある。それというのも、ドッグワイズ領は獣人の村を抱えているからだ。  ミャーコやスフレの故郷である獣人の村は、この広いドッグワイズ領の山奥に存在している。また北部のノーセンにも獣人は多いので、領内の統一のためには、サウンの改革は必要なように思える。 「南北の意識の差は問題だが、現状では無理に推し進めると反発を招きかねないな。なにせ王国内の獣人に対する嫌悪感は長い歴史の中で培われてきたものだからな。関わりの少ない地域では、どうしても植え付けられたイメージが強くなってしまう」  アインズはそのように問題点を述べている。現実を知らないと他人から吹き込まれたイメージがそのまま強く頭に定着してしまう。サウンの街はまさしくそんな状態で、王都同様に獣人に対する差別や偏見が後を絶たないというわけなのだ。 「まっ、私とスフレに関しては待遇が変わるでしょうけれど、獣人全体となるとなかなかに難しいでしょうね」  ミャーコとしても意見はそんな感じだった。  結局会議としての結論は出ずなかった。地道に獣人の事を伝えていくしかなさそうである。  会議を終えたミャーコは、馬小屋へとやって来ていた。ミャーコの元々の仕事は馬たちの世話である。最近は領主代理としての仕事が増えていたので、実に久しぶりの馬小屋だった。 『来たか、小娘』  馬小屋に入ると、いつものようにハリケーンサイトの声が聞こえてきた。相変わらずの偉そうな口の利き方だった。とはいえど、まったく変わらない気の強い性格に、かえって安心するミャーコなのである。 「やーっと視察旅行から戻ったわよ。同じ領地内だっていうのに、この中央の街道を挟んだ北と南とであんなに意識が違うなんて思ってみなかったわ」 『ほう、それはどういう事だ? 詳しく聞きたいものだな』  ミャーコのちょっとした愚痴に、ハリケーンサイトがものすごく興味を示していた。 「いや、馬にこういう話をしてどうなるっていうのよ」 『マロンも居るだろうが。元人間のマロンなら何かアドバイスがもらえるかも知れんぞ』 「ああ、なるほどね」  ここでマロンへと話を振ろうとしているハリケーンサイトである。気軽に名前を出すくらいだから、相当気に入っている相手のようだった。 『それはそうと、小娘。アオの奴がずいぶんとそわそわしていたぞ』 「アオが? どうして?」  飼葉桶を持ってきたミャーコに声を掛けると、顔を上げてハリケーンサイトに問い返す。 『街の方で小娘を見かけたという話が耳に入ったのだろうな。それからというもの、どうにも落ち着きが無くなっているようだ』 「……訳が分からないんだけど?」 『……小娘のその反応の方が訳が分からんぞ』  相変わらずミャーコは恋愛には疎いようである。この反応にはハリケーンサイトも呆れるばかりで、アオの事が気の毒になってきた。こればかりは報われそうにないようである。ハリケーンサイトの隣の馬房に居るマロンもくすくすと笑っている声が聞こえてくる。 「マロンも居るのね」 『ええ、居ますよ。全部聞いていましたけれど、ミャーコさんは致命的に鈍い方のようですね』  マロンにまでこんな事を言われるミャーコである。 『まあ、それはともかくとして、先程ケーンと話していた内容を詳しく聞かせてもらえないかしら』  どうやら、視察旅行でミャーコが感じた事にものすごく興味を持ったようである。こちらはさすが元人間である。 「そうね。自分だけで抱えているのもなんだし、聞いてもらおうかしらね」  半ば流れ的なものではあるが、ミャーコはハリケーンサイトとマロンに視察旅行であった事を話したのである。
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