後日談63

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後日談63

『まあ、そんな事がありましたのね』 『ふむ、めんどくさい連中だな、人間というやつらは』  ミャーコから話を聞いたマロンとハリケーンサイトは、そんな感想を持った。この時話したのは、ドッグワイズ領の南北での獣人に対する意識の違いだった。そんなに距離は離れていないのだが、明確に意識の違いがあったのである。 『そんな状況だと、今回は大変だったんじゃないのかしら、ミャーコちゃん』 「ええ、私はおろかスフレにもだいぶ冷たい目を向けていましたね。公爵夫人にあの目は、手打ちにされても文句言えません」  マロンの問い掛けに、ミャーコはその時の事を思い出してちょっと怒りながら話している。 『まあそうだな。あの犬っ子にそんな態度を取るたあ、俺様が蹴飛ばしてやりたかったぜ』  ハリケーンサイトが笑いながらそんな事を言っているが、なかなかに物騒だった。ミャーコにとってスフレは大事な妹のようなものだから、こういう風になるわけである。 「ダメよ、ケーン。足にダメージがあったらどうするのよ」  止めるミャーコはハリケーンサイトの方の心配をしていた。 『俺様の心配をしてくれるとは、実にありがたいな。小娘、貴様は実に面白い奴だ』  ハリケーンサイトは満足そうである。 「まったく……。とりあえず思い出してきたら腹が立つだけだから、この話題はここまで、はい」  ミャーコはぽふっと手を打って、ブラシを取り出す。毛繕いである。すると、普段は暴れるハリケーンサイトも、この時ばかりはおとなしくなる。ハリケーンサイトはミャーコの毛繕いを気に入っているのだ。  学園に居た頃も、ハリケーンサイトのこの姿には学園の職員たちも驚いていたものだった。普段は手が付けられないくらいの俺様気質の気性難なハリケーンサイトが、おとなしく撫でられたり毛繕いをされたりしていたのだから。そのくらいに暴れん坊だったのだ。 『うむ、やはり小娘の毛繕いが一番だ。アオもなかなかな腕前だが、小娘のが一番だな』 『本当にあなたったら、ミャーコちゃんの事が気に入っているのね』  ハリケーンサイトが満足そうに言うと、マロンから横やりが入ってくる。 『当然だ。言葉が通じるという特異点はあるが、我に臆せず接してきたのもこの小娘が初めてだったからな』  それに怒る事なく律儀に答えるハリケーンサイト。マロンの存在もまた、彼にとっては特別な存在なのだ。  それにしても、ミャーコはハリケーンサイトのさっきの言葉に何か引っ掛かりを覚えた。どうして比較対象としてアオの名前を出したのだろうか。さっきもアオの話をしていたし、本当に何なのか。ミャーコはそんな風に思っていた。本当にミャーコは自分の事となるとものすごく鈍かったのである。 『それはそれとして、獣人の扱いに関しては、私たちではどうする事もできませんね。歯がゆい話です』  それは当然な話である。馬に人の言葉は話せないのだから。とはいえども、ここまで心配してくれるあたり、さすがは元人間の転生者である。 「まあ、聞いてもらえただけでも気が楽になったよかったわ。お礼にしっかり手入れさせてもらうわよ」 『ああ、頼むぞ』  割と気が楽になったミャーコは、しっかりとハリケーンサイトとマロンの毛繕いをしておいた。元々どっちも毛並みはいい方だったので、ミャーコが手入れした後だとさらに光り輝くレベルになっていた。本当に馬だろうかというくらいに。 「さて、私は他の仕事があるからそろそろ行くわね」 『ああ、また悩みとかあったら聞かせろ。俺様たちの事なら気にするな』  道具を持って馬小屋を出ていこうとするミャーコに、ハリケーンサイトは声を掛ける。それに対して、ミャーコはくすっと笑っていた。 「そうね。そうさせてもらうわ」  照れ笑いのような顔を見せたミャーコは、小さく手を振りながら馬小屋を後にしたのだった。  本当にミャーコは馬と相性がいいようだ。
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