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後日談64
領内の視察旅行から戻ってきてからどのくらいが経っただろうか。
「そういえば、獣人の村の北側にあるあの崖って、結局何だったのかしら」
ミャーコは不意に、子どもの頃から散々近付いてはいけないと言われていた崖の事を思い出した。
あの崖はというと、学園に通い始めた年に帰省した際に、賊に襲われてスフレが放り込まれそうになった事件があった。そして、その後にスフレが破滅の巫女として目覚める事件があった。となると、ふと考え始めたミャーコは、すぐにとある仮説に行きついた。
(もしかして、あの崖って破滅の存在と関係があるのかな?)
あの時の賊はそんな事を呟いていたような、そんな覚えがうつろながらに残っていた。
もし破滅の存在がそこに眠っているとするのなら、獣人が危険を感じて近付かないようにしているのならつじつまが合うというものだった。
正直言って興味があるから調べてみたいと思うものの、もし破滅の存在が眠っていたとしたらどうなってしまうのかという怖さがある。しかし、故郷のすぐそばにそんなものがあるとなると、ミャーコは夜しか眠れなくなってしまっていた。普段は昼寝も適度にしているから、こういう書き方になるのである。
だが、一人で悩んでいても仕方がない。ミャーコは転生者の一人であるマロンへと相談を持ち掛ける事にした。
『あら、今日はどうしたのかしら、そんな思い詰めたような顔をして』
馬房に姿を見せると、マロンに早速心配されるミャーコである。そのマロンに対して、ミャーコは戸惑いながらも口を開く。
「ちょっとマロンさんに相談したい事があるんですよ」
『あら、そうなのね。分かる範囲で相談に乗りますよ』
ミャーコが正直に言うと、マロンは優しい声で相談に応じてくれた。
ミャーコがぶつけた内容を聞いていたマロンは、だんだんと表情が険しくなっていく。その内容が思っていたのとは違い過ぎたのだ。
『なんて事なのかしら、そんな場所があるだなんて……』
さすがにマロンの表情が歪む。馬なので分かりにくいものの、声の調子からも非常に驚いている事が分かる。
『なんだ、小娘。あの場所の話か』
そこへ、ハリケーンサイトが顔を出してきた。そうだ、ハリケーンサイトはあの場所の事を知っている。なにせあの事件の時にハリケーンサイトもその場に居たのだから。
「そういえばケーンはうちの村に来た事があったわね」
『その怪しい崖の事も聞かされたな。俺様からしても、あの崖は危険なの事がよく分かるくらいに異質だったな』
俺様主義の勝ち気なハリケーンサイトですら危険を感じるとは、あの崖がどれだけ危険な場所かというのがよく分かる。
その崖というのは底がまったく見えない深い谷だ。その谷の下には何があるのかを知る者は誰も居ない。単純に落ちれば戻って来れないという事もあるが、獣人があの崖に近付く事を禁じているのは、それ以外にも理由がありそうである。スフレがさらわれそうになった事にも関係がありそうだ。
結局あの時の賊は黙秘を貫き通したので、真相は闇のままなのである。
『調べるとしても、慎重に慎重は重ねた方がよいぞ。俺様ですらあの雰囲気には耐えられんのだからな』
「ケーンがそう言うのなら仕方ないわね。でも、やっぱり気になるのよね」
腰に手を当てながら、困り顔をして首を傾げるミャーコである。
『だったら、一度村に戻ってみればいいのではないか? あそこに関して詳しい情報があるとすれば、小娘の生まれ育った村以外にはないだろうて』
見かねたハリケーンサイトがその様に提案する。
「いやまあ、そうなんだけどね。なまじ立場があると動きづらいのよね」
ミャーコはかなり悩んでいる。領主代理という立場があるからこそだ。それに、馬たちの世話もかなり力を入れている。それがゆえに実に悩ましいものだった。
『だったら、あの犬っ子の番にでも聞いてみればいいだろうが。馬に関してはアオが居るしな、小娘一人分の穴ならいくらでも埋められる』
ハリケーンサイトにここまで言われてしまえば、ミャーコも渋々アインズに相談を持ち掛ける事にしたのだった。
永遠の謎だった村近くの崖。その謎が解き明かされる時が、ついに来るのだろうか。
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